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日伯論談=テーマ「日伯経済交流」=第40回=桜井敏浩=「失敗の研究」と基本戦略の練りなおしを

2010年3月6日付け

 1月9日付本論談に、高山直巳ジャパン・デスク代表が「失われた20年は挽回されたか」で、日本企業のブラジル投資について辛口の、しかし示唆に富んだ所感を寄稿されている。長い苦節の時代を経て、本来は資源に恵まれ一通りの産業基盤をもつブラジルが名実ともに〃未来の国〃になろうとしている時に、欧米はおろか韓国、中国にも後れを取りかねない、あまりに「ブラジルの高成長の波に乗り切れていない日本企業」の姿に切歯扼腕するのは、日本にいるブラジルウォッチャーとして同じ思いである。
 筆者は1992年からセニブラ、アルブラスというナショナル・プロジェクトを通じてブラジルに関わり、カルドーゾ政権下での経済安定実現をみてその将来性を様々な形で喧伝して来たが(http://www.bizpoint.com.br「桜井ブラジル評論コーナー」参照)、他方で日本では90年代前半までのブラジル経済の混乱に懲りて「羮に懲りて膾を吹く」傾向が未だに壁となっていることを痛感してきた。
 その理由として異口同音に挙げられるのは、「あまりに遠く、現地情勢が判らない、情報が乏しい」「政治的に不安定」「経済政策は不安定で、何をしでかすか読めない」「経済、金融、為替政策が頻繁に変わり、安定した経営が出来ない」といった、もっぱらブラジル側に問題ありとするものが多い。
 しかし、本当にそうだろうか? ということは、同時期に進出した欧米系企業や地場産業の発展例、成功例をみれば、どう考えてもブラジル政府・市場が日本企業だけ狙い打ちにしたとは考えられないだけにおかしい。
 すでに識者が指摘した日本企業の投資姿勢である「小さく産んで大きく育てると言われるが、実態は産みっぱなし」(上記高山氏論談)、「欧米企業が事前にコストをかけて調査・分析し、戦略を立て大規模投資をするのに対し、日本企業は関係者から集めた情報だけで確固たる方針を立てられず、為替等リスクを考え必要最小限の規模で投資を行う」、「日本企業は出先への権限委譲を限定しているため、本社にいちいち相談しないと事が決められない。しかも、本社にはブラジルが分かる人材がいるわけではない」、「現地法人のトップに派遣されてくる本社からの人材はポルトガル語が不十分で現地事情も分からず、しかも3、4年で交代というのでは、ブラジル財界人と付き合ってビジネス・チャンスをつかむことはとても出来ない」(鈴木孝憲著『ブラジル巨大経済の真実』日本経済新聞社2008年)といった例は、残念ながらこれまでの多くの日本企業に当てはまっているのではないだろうか。
 だとすると、ブラジル事業は「経済・市場情勢の変化に翻弄されて儲からない」というのは言い訳と決めつけるものではないものの、「ブラジル側の予測不能な事情に因るもの」というよりは、日本側、特に本社のブラジル投資戦略の基本的なミスにあるのではないかとの推測がなり立つ。
 それらが当たっているか否かは個々の投資案件毎の「失敗の研究」によって明らかになり、それが対ブラジルに限らず次の対外投資のためにも有用な判断材料になるのだが、日本では企業に限らずこの「失敗の研究」はややもすると責任者捜しが目的のように取られ、事を穏便に済ませたい、誰も傷つけたくないという社会的風潮からほとんど行われないまま、もっぱらブラジルの特異な事情、不運な環境のせいということにしてきたのではないだろうか。
 ここ3年ほど前から世界的な資源価格の上昇と〃BRICs〃の評価ブームに乗って、ブラジルへの認識も徐々に改まり、東京でのブラジル経済・投資関連セミナーの入りも以前からみれば格段に聴衆が増えてきた。やっと長い雌伏の時代から脱して、再びブラジルへの投資を考える企業が増えつつあることを実感する。
 しかし、新興国市場をめぐる環境は大きく変化してきている。「日本はもの作り大国」であり、良い物を作れば世界で通用するというだけでは勝てないことが明らかになってきた。
 例えば韓国の家電製品は、とうに日本製品の模倣、安物の粗悪品から脱し、「日本的な感覚で言うと品質は劣っているのに売れるのは、現地の消費者が本当に望んでいる要素を備えているから」、「むしろ日本企業は、もはや彼らと同じ価格で同じ品質の製品を作る技術をもっていない」とさえいわれるようになってきた(吉川良三・元サムスン電子常務「日本企業はなぜサムスンに負け続けるのか」『文藝春秋』10年2月号)。今や従前の製造業の延長で勝負するのではなく、韓国や中国が真似の出来ない新技術やノウハウなど、日本企業が持っている特性を活かして勝負する段階に来ているのではないだろうか。
 まずは「失敗の研究」をきちんと済ませた上で、誤った先入観を捨てて世界の生産・市場の変化を分析し、時機を逸しないよう、確たる基本戦略をもって腰を据えて、前途洋々なビジネス・チャンスがまだまだあるブラジルの市場に挑むべきであろう。

桜井敏浩(さくらい・としひろ)

 東京都出身。長く中南米等向けのODA借款業務に従事した後、日伯紙パルプ資源開発、日本アマゾンアルミニウムの役員を経て、現在はブラジルでかつて鰻養殖事業を展開した徳倉建設(本社名古屋)特別顧問。(社)日本ブラジル中央協会常務理事、(社)ラテン・アメリカ協会理事、拓殖大学政経学部講師。『現代ブラジル事典』(新評論、共同監修)、『ブラジル新時代―変革の軌跡と労働者党政権の挑戦』(堀坂浩太郎編、勁草書房、共著)。67歳。(本稿は、筆者の関係する団体、企業の見方を反映するものではなく、個人の見解です)

※この寄稿は(社)日本ブラジル中央協会の協力により実現しました。

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