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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年4月1日付け

 ジョゼ・アレンカール元副大統領と日系社会の関係で思い起こされるのは、08年6月22日のパラナ州の移民百周年式典だ。大統領代理として彼が出席し、30分以上の長い祝辞を、原稿を読む形で行った▼7万人もの大聴衆は途中で飽きてしまい、子供は地面に落書を始める始末・・・、あまりに長いので大人もザワザワと雑談を始めた。気位が高いだけの政治家ならその場でヘソをまげて帰っていただろう。でも副大統領は「あとほんのちょっとだから、もう少しだけ聞いてくれ。あと1頁だから」と大らかに語りかけ、静かになるのを待って再び読み始めた。と思ったら「あっ、あと2頁あった。ごめん」と突然言って、大観衆を爆笑の渦に巻き込み、結局は最後まで読みきり大喝采を受けた。7万人を前にこれができるのだから実に老練な政治家だと感心した▼あの時、副大統領は「規律正しさ」と「勤勉さ」が日本移民の優れた特性であり、「耕地で懸命に働きながらも日本人は子弟教育に気配りを忘れなかった。その結果、パラナ州のあらゆるところで日本移民の功績は認められるようになった」と高らかに演説し、皇太子殿下の前で「日伯の絆がより一層緊密になることを祈念する」と述べ、百周年直前に亡くなった最後の笠戸丸移民、中川トミさんを顕彰して挨拶を終えた▼病気との闘いばかりがテレビでは強調されがちだったが、左派ルーラ政権における右側の重石としてバランスをとる貴重な存在感を放っていた。一介の小僧から大企業を育て上げた苦労人だけに、世間への奥深い理解があったに違いない。新政権もそのバランス感覚を受け継いでほしい。合掌。(深)