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県連故郷巡り=アララクアラ、ノロエステ巡訪=(12)=深い禍根残したダム建設=「政府には住民どうでもいい」(下)

牧草地200アルケールの半分を失った日系牧畜家(同市製作ビデオより)

牧草地200アルケールの半分を失った日系牧畜家(同市製作ビデオより)

 故郷巡りの後、ダム建設で退去を余儀なくされた区域に在住していた人や現地事情に詳しい人に電話で取材した。

 チエテ川沿いで農牧畜業を営んでいた田中正三さん(90、静岡県)は「25平方千米の土地を有していたが、その全てが水没した。政府からは最小限の金額で強制的に買い上げられ、為す術がなかった」と話す。
 田中さんの農場では、日系人12世帯が歩合制で農業に従事していたが、全世帯が聖市に転住。保有していた約300頭の牛も分割し、全て他所の牧場主に売却した。「土地を奪われたものにとって、ダム建設は被害を被ったということでしかない」と口をつぐんだ。
 当時、チエテ川沿いの借地で農業を営んでいた谷合喬さん(73、二世)も退去を余儀なくされたうちの一人だ。
 「水没するかもしれないとの噂は建設のずっと前からあったし、測量が実施されているのも知っていた。でも実際に水位が上がり始めてから、自分の土地も水没すると分かった。しかも、まさかあんなに早く水没するとは。政府にとって僕らはどうでもいい下層の人間なんだと思った」と当時の苦々しい胸中を吐露した。
 とはいえ、谷合さんは借地で農業をしていたため、被害は作物だけに留まった。聖州電力公社(CESP)の補償措置で、市街地から20キロ離れた「オルチ・フルッチ・グランジェイロ」に土地を分配され、現在はそこで野菜作りを営んでいる。

チエテ川に沿って薄く塗りつぶされた部分が水没区域(Omar Jorge Sabbag)

チエテ川に沿って薄く塗りつぶされた部分が水没区域(Omar Jorge Sabbag)

 「僕らのような小作農は土地を持っていなかったから、土地が無償でもらえて逆によかった。でも、土地所有者の被害は深刻で、なかには買上金額を巡って訴訟を起こし、賠償が下りずに亡くなっていった人たちもいる」と話す。
 「発電所建設で近代化が進められた一方、損害は大きかった。昔は牧畜が盛んだったが、優良な牧草を生産する肥沃な土地は大部分が水没してしまった。これはもう取り返しがつかない」と複雑な心境を吐露した。
 ペレイラ・バレット文化体育協会の秋末健会長(73、二世)も「ノーボ・オリエンテ橋が沈み、長さ2キロにもなる新大橋が出来たが、いまや市街地を通らなくなった。ここまで土地が水没してしまうと発展のしようもない。損失の方が大きい」と異口同音に語る。
 補償問題も未だに解決されたわけではない。「オルチ・フルッチ・グランジェイロ」の土地の権利証も未だ発行されていないという。「あれから何十年も経つのに。今年中には発行されると聞いているけど、一体いつになることやら」と溜息を漏らした。
 これまで発電所の商品流通サービス税(ICMS)は同市に還元されていたが、その配分を巡ってアンドラジーナと紛争になり、昨年からはそれすら配分されなくなった。「月140万レアルほどだけど、小さな町にとっては大きな収入源。ダム建設で大きな犠牲を払ったのに。市民は怒りを募らせているよ」。
 ダム建設で損害を被ったペレイラ・バレット。水没による損害は計り知れず、今なお現地に深い禍根を残しているようだ。(続く、大澤航平記者)


□関連コラム□大耳小耳

 ペレイラ・バレットでは、トレス・イルマンス水力発電所建設により市の西側を走るチエテ川沿いが水没するなどの悪影響が大きかった。それに加え、東側の市の境となっているサンジョゼ・ド・リオ・プレット川沿いも、イーリャ・ソウテイラ水力発電所建設により川幅が広がって土地の一部が水没した。まるで「前門の虎、後門の狼」のように両側から追い詰められた立地だ。さらに追い討ちをかけるように、両発電所の貯水池を結んで効率的な発電を促すため、サンジョゼ川を介してパラナ川とチエテ川を結ぶ全長9・6キロで川幅50メートルものペレイラ・バレット運河まで、市を横断するように建設された。残念なことだが、一連の水力発電所複合施設建設により最も被害を受けた町と言えそうだ。

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