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San Paolo/ Sao Paulo -1- 2大ファミリー

グルメクラブ

9月24日(金)

 ファザノ家とマンチニ家。最近サンパウロのイタリア料理は、ある意味でこの両家を軸に回転している。最先端のイタリア料理に目配りしたいずれの系列店もマジで高級志向、一泊平均三百ドルのホテルまで立ち上げたファザノ家。対して、大衆的な色合いを持ち味に、たまの外食でワンランク上の気分を味わいたい庶民の心をがっちり捕らえ、大衆レストランの王道を行く感のあるマンチニ家。知名度、客入り、話題性のいずれの三点でも拮抗するライバル同士だ。
 映画「ゴッドファーザー」を久しぶりに観直して気付いたことがある。マフィアの本拠地シシリア島出身者の多かったニューヨークと、カラブリアやヴェネトなど農牧地帯からの移民が目立ったサンパウロでは、同じイタリア人でも血の気が明らかに違っている。アル・パチーノ扮するマイケル・コルレオーネが逃亡する先のシチリアの村では「あだ討ちが多発したため、ほとんどの男は死んでしまって女しか残っていない」。その女も「シチリア女は鉄砲玉よりおっかねぇ」とくる。較べて、サンパウロのイタリア系はどことなく牧歌的。ファザノ家とマンチニ家にしても、ドンパチ(衝突)を避けている。前者の縄張りはもっぱらジャルジンス区。後者はイタリア人街ビッシーガに程近いセントロでの営業にこだわりを見せ、きっちり棲み分けしているのだ。
 興味深いのは、ファザノ家は一度も「リトル・イタリー」に関わることがなかったということだ。一九〇三年、旧市街アントニオ・プラド街で現グループ・オーナ、ロジェーリオの曽祖父でイタリア移民のヴィットリオが開業したブラッセリー・パウリスタがファザノ家のスタートだが、早々五〇年代には旧市街を離れパウリスタ通りのコンジュント・ナショナル内に店構え、ジャルジンス区進出への布石を先駆けて打っている。
 先代ファブリーツィオは出版社エジトラ・トレスの経営、国産ウイスキーオールド・エイトの開発販売にも肩入れしていた人物だ。オールド・エイトはヒット商品となり、イケイケなイタリア人気質全開でブラジリアン・ブレンドなる銘柄を新発売。次の博打に出たが、待ち受けていたのは、なんと一家破産だった。
 そして八〇年代、同家はアマウリ街でゼロから再出発。失墜から復活を果たし(合間にロジェーリオが血迷って、フランス料理店!をショッピング・エルドラド内に開け失敗を犯すドジを踏んだが)、九〇年代の幕開けと共に、花のアドッキ・ロボ街になんとかたどり着いた。七転八起のファザノ家はその後急ピッチに勢力を拡大し現在、市内に六店舗を所有、リオにも系列店をオープン。ワインなど食材の輸入業務も手掛け、一族長年の夢であったホテルをジャルジンス区ヴィットリオ・ファザノ街に完成させてからは、「ドン・ファザノ」の名をほしいままにしている。
 片やマンチニ家の当主ヴァルテルは生粋のイタリア系らしく、ブラス区生まれ。市内最古のピッツアリア・カステロンエスのかまどから上がる煙のにおいをかぎながら育った三世だ。幼少はカンタレイラ市場周辺を遊び場とし、六〇年代~七〇年代には色街ネストル・ペスタナ街でジャズやブラジル音楽を聞かせるナイトクラブ経営で成功した。八〇年代以降商業地区として、ジャルジンス区が注目を集めてもセントロ一筋。全長二、三百メートルしかないアヴァニャンダヴァ街にいま、トラットリア(カンチーナ)、レストラン、ピッツアリアをずらり並べて営業している。
 ファザノ家ロジェーリオはかつてロンドンで映画を学んだこともあるシネフィル(映画狂)で、一方のマンチニ家ヴァルテルは演劇派、劇団役者に支援を惜しまないという対照ぶりも棲み分けを象徴して好奇心をくすぐる。また、ファザノ家がパニーニ(イタリアのサンドイッチ)専門店を三年前に始めると、マンチニ家は今年、待望のピッツアリア、アヴァニャンダヴァ34を創業し新たな熱戦の火ぶたが切って落とされたのも見逃せない。ただ、同じイタリアンフードでもパニーニとピッツアでは素性がまったく異なる。正面戦を挑んでいるわけではない。この両家の身のかわし方がなんとも賢明だ。互いの「聖域」を荒らさないよう心を配っているなぁと感心してしまう。
 ヴェージャ・サンパウロ誌今週号は毎年恒例のレストランガイド。料理評論家、グルメ雑誌編集者ら十二名がいま最も旬の店を、料理分野別に選んでいる。ファザノ家はハイクラスなイタリア料理、一般イタリア料理部門でいずれも金メダル。ヴァライエティに富んだ料理を出すレストラン部門でも一席。さらに、サンドイッチとファストフード両部門でフォルネリアが最高評価を獲得して、計五冠を達成した。ヴァルテル家はそのトラットリアとレストランで月間約三万七千人という驚異的な集客力を誇りながらも、〃例年通り〃の無冠だった。
 フォルネリアには同家の粋が凝縮した形で詰まっていると分かる。四十一種を揃えるサンドイッチの素材選びから、レンガ作りの古風な外装と最新・シックなインテリア、モデルばりの美人ホステスまで、どれをとってもドンの鷹揚さが漂う。たかがパニーニにしてこの高レベル。表向き、ファザノ家が無敵を誇るのも無理はないところだ。だからといって、万年無冠のマンチニ家の名声と権力が色あせて見えることはない。ブレることなくイタリア庶民料理の王道を歩む、無冠の、いや、裏の帝王らしい堂々たる風情が、最近オープンしたアヴァニャンダヴァ34の空気とピッツアにも確認できるのだ。
 ファザノ家がフェンシングとすれば、マンチニ家は剣道だ。同じ「戦場」に立っていないのだ。だが仮にもし今後、同じ「剣」を交えることがあるならば、イタリアン・ジェラート(イタリア風アイスクリーム)の専門店対決ではないか、とひそかににらんでいる。
 【フォルネリア・サンパウロ】Rua Amauri, 319 Itaim Bibi – Zona Sul 3078-0099 / 3078-4888
 【アヴァニャンダヴァ34】R. Avanhandava , 25 Bela Vista Telefone : (011) 3231-0033

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