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システム崩壊の危機―健康保険―=連載(8)=援協に地方分権化の波=採算割れ必至でSUS拒否

健康広場

2005年7月13日(水)

 「連邦、州政府から財政、技術的な協力を得て市民向けの保健事業を振興し、サービスを提供する」(ブラジル連邦共和国憲法)。八八年憲法は、三十条七項で保健分野におけるムニシピオ(市・郡)の機能を規定している。
 連邦、州、市・郡のうち、より地域に密着しているのは市・郡。その結果、権限が委譲される形になり、各地域内において保健システムの管理・運営に対し、全体的な責任を負わなければならない。
 予算も連邦から州、州から市・郡に流れている。地方分権化と言っても、保健事業から連邦、州、民間の共同運営者を排除してしまうわけではない。
 パラー州は九三年、分権化に関する専門委員会を設置。不動産や流動資産の譲渡について法整備を進め、〇二年末までに保健所や救急施設など計百四十九カ所の運営を市・郡に委ねた。
 全国的にみて、市・郡によっては分権化に反対。保健事業の運営・管理を州に帰し、ごく簡単なサービスだけ提供している。同州の場合、賛成しなかったのは一市だけだった。
 SUS(統一保健システム)も、地方分権化の対象の一つだ。政府からの補助金の低さや支払いの遅延のため、民間病院はSUSに手を伸ばしたがらない。
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 援協は九〇年代末、サンパウロ州政府よりイタクァ総合病院の経営を打診されたことがある。友好病院(八八年竣工)の業績が、評価された結果だ。是非を巡り、日系政治家たちを巻き込んで内部が分裂した。
 この時、州法の調査やSUSを扱う病院の視察を行った一人が、具志堅茂信事務局長。「どう考えたって、赤字になるのは目に見えていた。もし話を受けていたら、組織がつぶれていたかもしれない」。
 援協の資料によると、イタクァ総合病院(敷地面積三万平方メートル)は基礎専門科(内科、外科、産婦人科)の応対を主な目的に建設されたもの。二百二十床あり、入院のほか救急診療、総合診療所がある。患者はSUSだけが対象だ。
 設備を完全に整えて操業が開始出来るようにした上で、州が経営団体に引き渡すのが条件。診察・治療の収入以外に、補助金の交付を約していた。最大の利点は、慈善団体として維持可能なこと。毎月の免税額は、社会保障負担金など計四十万レアルに上った。
 実は、新法令3039号が九九年年四月に発効。必要書類の不備などから、援協はこの時、慈善団体登録の更新を却下されていた。このほか(1)友好病院の支払い不能患者をイタクァへ回す(2)援協のイメージ・アップ(3)連邦・州政府との関係強化──などが期待された。
 しかし、具志堅事務局長は言う。「政府が支払う金額は診察料が二レアル、入院も二十レアルを上回らない」。援協総合診療所・友好病院の初診料は会員でさえ、四十七レアルだから還元率は、あまりにも低い。
 また、八百人の職員を新規に雇用する必要があった。「政府の補助金などは、数カ月遅れるのが一般的」(具志堅事務局長)。資金的な余裕がなければ、無理な話だった。
 視察結果には、「サンタ・カタリーナ病院(九割がSUS)の負債額は二千二百万レアル。サンタ・カーザ慈善病院(すべてSUS)も莫大の借金を持ち、九十七年度に州政府からSUSの支払いが遅れている」などと収支状況が記されている。
 さらに二年後、定款改正を迫られ、理事会の編成をイタクァ三五%、従業員一〇%、援協五五%に変えなければならなかった。非日系化が進行。コロニアの福祉向上という創立の趣旨が失われる恐れもあった。
 九九年五月の理事会で、是非を問う投票が行われた。出席した理事三十二人全員が、「NAO」を支持した。事業を拡大せず、身の丈に合った運営方針を選んだのだ。  (つづく)

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