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誤診をいかに防ぐか

健康広場

2005年10月5日(水)

 外科手術のレベルに関しブラジルは先進諸国に比べて遜色がないと、医師から半ば自慢げに聞いたことがある。医学生一人が解剖できる死体数が多いため。メスの使い方に慣れているのだそうだ。悪名高い治安を考慮すれば、頷けなくもないが……。
 一方医学部を卒業して研修を受ければ、医師として認められ資格試験はない。実力を保証するものは? 人の命を預かる者として条件は甘くないか? 様々な不安がつきまとい、できれば医療機関の世話になりたくないと思う。
 ブラジル医学界は先住民の民間療法に西洋医学が融合して生まれ、当初まとまった体系をなしていなかった。そのため欧州から訪れた学者たちは、厳しい批評の目を向けた。もちろんコロニア時代の様式がそのまま通用しているわけではないが、曖昧模糊たる雰囲気をぬぐえない。
 サンパウロ医師会には苦情が一日に十件入るという。もっとも検査結果に対する不平不満も含まれ、すべてが法廷闘争に持ち込まれるわけではない。
 主な内容は(1)出産中注意散漫である(2)アレルギーテストなしで麻酔薬を打つ(3)手術後体内から医療器具を取り忘れる(5)衛生管理が足りない(6)不適切な医薬品を処方する(7)回復が不十分なのに患者を退院させる──ことなど。
 公私を問わず、診療所や病院で誤診が増加しているのは確か。特に公立病院に集中している。診察に必要なインフラが整備されておらず、医者が適切に仕事をこなせないため。利用者の多くは低所得者層で文化水準が低く、医療従事者の行為に疑問を持たないという。
 また保険会社と医療機関の契約で、診察料は安く設定されがち。医師の報酬は抑えられる形になっており、収入を増やすには多くの患者を診なければならない。その結果、一人当たりの診察時間は減ってしまうことになる。そうした〃医療の商業化〃も、医療過誤に影響しているかもしれない。
 誤診は患者の健康を傷つけるだけでなく、医師・当該医療機関の信用を失墜させる。法廷闘争に持ち込まれて損害賠償の支払いが確定すれば、民間医療機関や政府が被る経済的な痛手は大きい。予防には、いかなる策が有効なのだろうか。
 ヴェージャ誌(九月七日号)によれば(1)主治医が連邦政府の医師登録リストに入っているか調べる(www.portalmedico.org.br)(2)執刀医が専門医で卒業後研修を終えたかチェックする(3)治療のリスク・手術の回復時期・医薬品の副作用など詳細を尋ねる(4)医師は焦らずに診察し、緊急時には患者の病歴などに精通している医師に任せる──などが考えられる。
 大学レベルでの質の向上も欠かせない。サンパウロ医師会は、資格試験の創設を提案しているという。NGOが患者の権利を啓蒙するのも、保健制度を改善していく一つの手段だろう。
 医師個人にだけ起因しない誤診。医療機関、政府そして社会全体が〃護身(ごしん)〃に取り組んでいく必要がありそうだ。

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