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平凡な名前じゃ酒は語れない

グルメクラブ

2005年10月28日(金)

 あなたの名前を教えてください。私見だが、酒を論じるプロとしての素養があるかどうかは名前を聞けば大体分かる。評論家やソムリエとして活躍したいなら、その成否のカギはまず、名前が握っている。
 というのも、この世界には恵まれた名前の持ち主が多いのだ。
 ビールやウイスキーの世界的なジャーナリスト・評論家がイギリスにいる。彼の名はマイケル・ジャクソンという。あの、有名な黒人ポップスターと同じだ。
 このビールは「スリラー」(怪奇的)だねとか、こいつの味は「バッド」(悪い)とか。カギカッコ内はスターのヒット曲名だが、論評の中でネタとして使える利点がある。
 日本で有名なワインのソムリエは確か、田崎真也といった。実家は神戸や銀座で真珠でも商っていそうな、そんな感じだ。
 名前のイメージがワインの性格にぴったり合うので、田崎さんの言論にはいつも説得力がある。
 ほかに名前も光る存在といえば、その採点がメーカー、市場の動向を左右するワイン評論界の帝王ローバート・パーカー(アメリカ人、元弁護士)=写真=がいる。姓名の間にBを入れて、ロバート・B・パーカーとすれば、ハヤカワ・ミステリ文庫の推理小説作家だ。
 原稿はパソコンなど使わず、英国製高級万年筆で書いているに違いない。書斎で流れている音楽はジャズか。チャーリー・パーカー。ただ、ケネディの兄貴じゃなくて弟の方と同名なのはちょっと残念だが。
 ブラジルのグルメ雑誌「グーラ」五月号でその帝王のインタビュー記事を見かけた。南米ワインについての質疑応答の部分を抜粋すると、
 ――アメリカの雑誌「フード・アンド・ワイン」で、新時代の予測としてアルゼンチンワインの台頭を指摘していた。一方、チリワインにはあまり興味を示していない。なぜだ。
 「八〇年代のチリワインは高品質低価格で素晴らしかった。がその後、商業的になり、アメリカで売れ始めるとダメになった」
 「逆にアルゼンチンは、八〇年代は遅れていた。でもカテナ家のような優れた造り手が投資を開始した。特にマルベックを用いたワインだ。原産のフランスではほとんど生産されていないこのブドウが目を見張る出来を誇っているのはなぜか、興味深い」
 ――チリのカルメネーレはについて。
 「まだ十分に試飲していないんだけど、マルベックほどの成果は見られないのでは」 
 ――何かブラジルワインを知っているか?
 「いや、知るべきか?」
 ――ブラジルはシャンパンの品質で国際的に評価されているが。
 「一度も聞いたことがない」
 調子に乗るんじゃねぇーロバート、と思いますが、ブラジルのワインには大きな弱点がある。それは、これなら他に負けないと言い切れる品種のブドウが育っていないことだ。
 チリのカルメネーレ、アルゼンチンのマルベック、そしてウルグアイのタナ。どれもフランスから移植されたものだが、本家はぱっとせず、いまや南米の特産だ。それぞれ個性に富む赤ワインに仕上がり、世界のファンを魅了している。
 目玉がない限り、ブラジルワインは大きな関心を集めないだろう。そう、本紙グルメ記者は力説するが、性も名も極めて平凡なだけにもちろんアテにはならない。

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