ホーム | コラム | 樹海 | コラム 樹海

コラム 樹海

 今年もまた暮れが近づいてきた。不思議なことに還暦が近い年頃になると、時の流れが速すぎると感じるようになり、一年という長いはずの月日があっという瞬間に過ぎ去ってしまう。小さな子供のときには「早く大人になりたい」の思いが強く、あんなに時の来る遅さに苛立ちしたのに―である。残り少なくなった暦を見ると、一月三日には「山根剛氏死去」と記してある▼脳卒中だそうだが、今年のコロニアは多くの貴重な人々が黄泉へと旅立って行かれた。パ紙の法定社長・谷口恭巳氏や重役・寺尾幸造氏に始まりサ紙編集長・中曽根武彦氏。活版の生き字引・藤本憲造氏とどうしたわけか邦字紙の関係者がやけに多い。文化協会の事務局長として采配を振るった安立仙一氏が泉下へと行かれたのもコロニアには痛い▼ヤクルトを創業した若林輝男氏というよりは、ニシキゴイをブラジルに導入し展覧会を開催するまでに育てた人の方が日系人には馴染みが深い。庶民派としてはビアジャンテとして活躍した寺田賢水さんがいる。飄々とした情の深い味が忘れ難い。肉体的には小柄ながら抜群の指導力を誇り―ブラジル柔道界を世界のトップ・レベルに育成した小野寺郁男氏が舌ガンに倒れて世を去ったのも惜しまれる▼こんな懐かしい人々との別れを寂しく感じるのだが、そんなことは知らぬとばかりに暮れの街は買い物をする客たちで混雑している。これが人の世ーなのだろうが、年の瀬の慌ただしさに一息いれるような夜には、ちらと亡き人への想いを確かめるのもいい。(遯)_

03/12/20

image_print