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日本文化の伝承を考える(19)=活動としての文化伝承=(1)形ある文化

3月13日(土 )

 ブラジル人が日本文化に興味を持ち、日本文化に接触していく過程を、日本文化に興味を持つ、日本文化に接する、日本文化を学ぶ、日本文化を体得する(興味・接触・学習・体得)と段階に分けて考えられる。
 効果的な日本文化の伝承を考えるなら、先ず「形ある文化」に絞って活動を興すべきである。このことは、日本文化の伝承を会の目的にしている組織や団体ではもう既に実行されていることである。例えば、日系団体の催し物では、生け花の展示があり、仮設の茶室で抹茶を飲んでもらい、折り紙の指導、和太鼓、盆踊り、傘踊りなどがあり、焼きそば、うどん、てんぷら、寿司などの日本食を用意する。七夕まつり、年末の餅つき、ヨサコイソーラン、大豆食の普及などもこれに属する。私達が行っているカザロン・ド・シャの保存運動もこの範疇に入る。
 ブラジル人を巻き込んでこれらの活動を広げていくことは、ブラジル人が日本の文化に興味を持ち、日本の文化に接触する機会を多く作る。
 形ある文化は、社会構造との関連が希薄であると言っても、日本文化である以上何らかの文化規範を伴っている。日本に由来する文化がブラジルに定着するとき、程度の差はあれ、社会構造と関連のあるところが除かれるか変化して、ブラジルに定着し易い形に変わる。
例えば、茶道・生け花を取り上げるなら、双方とも家元制度のもとに年数をかけて完成された形式美であり、生け花については、流派により、現代美術の流れにそって、造形芸術の面が強調されているものの、ブラジルでは家元制度抜きの形式美や造形芸術の面のみが受け入れられている。また柔道・柔術・空手などのスポーツでは、日本において多分に精神主義の持ち込まれたスポーツや格闘技としてあるが、ブラジルでは、精神主義の面は薄れ、純スポーツ、純格闘技にちかい形で定着している。カラオケで見るなら、日系人社会では、どの文化協会でもカラオケ大会などを催しカラオケが盛んで、非日系ブラジル人の参加も多くみられる。そして、日本でのカラオケの楽しみ方とブラジルでのカラオケ愛好家のやり方を比べてみるとかなり違っていて、カラオケ大会を催す組織づくりもブラジル的である。
 ブラジル人の好みに合うもの、合わないものがあるものの、形ある文化は、文化の伝承に当たってカルチャーショックを起こす問題もほとんどない。日本の書籍など出来るだけ翻訳してブラジルに普及させるべきだし、催しものも、行う当事者の創意と工夫によって、ブラジル流にこの国に合わせ、出来るだけ機会を作って日本の文化を紹介して行くべきだ。(中谷哲昇カザロン・ド・シャ協会代表)

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