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矢嶋さん『流亡』をじょうすい 小説選集で短編5編も

6月30日(水)

  矢嶋健介(本名梅崎嘉明)さんが、このほど小説選集『流氓』を上梓した。二百五十枚の長編『流氓』のほか、短編五編がおさめられている。正真正銘の移民文学である。
 『流氓』は、『夜逃げ』の題で『コロニア詩文学』四十七号から連載され、あとで『流氓』と改題、二〇〇〇年『ブラジル日系文学』十一号をもって完結した作品。
 副題が《薄幸移民の痛恨歌》。序文で松井太郎さんは「時代背景の考証も行き届いており、舞台現場、(移民)二家族の運命など、事実そのものとして何人をも首肯させる重さがある」「世界史の中でも、かつてない規模の動乱の時代に、海を渡って往った若者たちの倖せ薄い出会いを、矢嶋氏は長恨歌として詠っている。私は、秋の夜長に刻を忘れて通読した。哀れとも、痛ましいとも言える沈鬱な印象が長く残った。近来の日系文学界に傑出する労作である」と評している。
 矢嶋さん自身は、一九三〇年代の初めに渡航した移民家族の(自身の家族を含めての)悲惨な情況を小説の手法に託して書いた、といっている。事実とフィクションがないまぜになっている。戦前移民が読めば、「あのころは、そうだった」と、小説に登場する移民たちの思考・言動にまったく異論をはさまないだろう。
 ブラジルの日系の、移民文学の一方の担い手は、戦前の子供移民だ。矢嶋さんも九歳で来て、ファゼンダでの「(おとな)移民たちに対する苛酷な鞭」「戦後の、あってはならなかった混乱」を見、体験した。だからこそ書けたのが『流氓』だろう。

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