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移民史編纂が佳境=戦前に続き戦後編=転住者、2世にも光=亜国日系社会「内容かなり充実」

4月27日(水)

 【ブエノスアイレス発=下薗昌記記者】タンゴの国に根付いた日系社会の規模は約五万人。その人数こそ、ブラジルに及ばないものの、第一号移民が入ったといわれる一八八六年以来、着実に歴史を刻んできた。首都ブエノスアイレスでカフェ店や洗濯屋を開業した初期移民に始まる百年を超える移民史を後世に伝えようと始まった編纂作業が、佳境を迎えている。在亜日系団体連合会が立ち上げた編纂委員会による「アルゼンチン日本人移民史」だ。二〇〇二年に刊行された戦前編に続いて、戦後編がほぼ日の目を見ようとしている。「内容はかなり充実している。あとは出版資金をどうするか」と編纂委員長の崎原朝一さん(70)は話す。
 年々失われつつある移民の体験談や貴重な資料を後世に伝え、日系人としてのアイデンティティーを守りたいと二〇〇〇年四月に立ち上げられた同編纂委員会。戦前編は三百九十五ページに渡る力作で、一八八六年に入国した移民第一号と言われる牧野金蔵氏に関する資料に始まり、初期移民として名を馳せた様々な人々や現地移民の代表的職業であったカフェ店、洗濯屋、花卉栽培などを丁寧に検証している。
 現在、崎原さんと渡辺弥さん(58)の一世二人に加え、二世のアレハンドロ・クダさん(44)の三人が戦後編を編集。アルゼンチン日系社会の特徴でもあるパラグアイやボリビアなどの転住者組にも光を当てている。
 また、崎原さんは「二世の考え方や動きにも大きなスペースを割いているのも戦後編のよさ」と説明。「二世たちの歩み」と題された一項では、出版物やその社会参画運動を通じて二世の考え方やアイデンティティーの変移を探っている。
 当地邦字紙など日本語による資料はもちろんのこと、アルゼンチンで刊行された新聞や書物などスペイン語での資料を読みこなすのに大きな力となっているのがアレハンドロさんで、「彼が加わったことでより綿密な資料と考察が加わった」と崎原さん。元々、日本語教師をしていたというアレハンドロさん自身も「移民が減少する中、今やらないといけない作業。日系社会の共通認識として改めて後世に伝えたい」と意気込みを見せる。
 数々の資料を読みこなし、さらには地方に出向いて一世の聞き取り調査をしたり、考証作業を担当したりする渡辺さんの地道な取り組みも編纂作業では欠かせない。
 日本語とスペイン語で刊行した戦前編同様、戦後編もそれぞれ三千部、千五百部を予定している。すでにまとめの段階に入っており、国際交流基金などからの助成を得て年内にも刊行の予定だ。
 同編纂委員会では「今後の両国の交流の一助のためにも是非、戦前編を読んでもらいたい。購入していただいた費用が戦後編の資金につながる」と呼びかける。購入は日本語が七十ペソ、スペイン語が六十ペソ。戦後編もほぼ同様の予定。問い合わせは在亜日系団体連合会(libro-imin@santei.com.ar)まで。

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