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コラム 樹海

2007年4月22日付け

 観光で日本を訪れる外国人が感嘆する一つに「乞食も新聞を読む」があるそうだ。近ごろは活字離れが厳しく、出版社は青息吐息で漫画ばかりが売れる。その昔の学生や青年らは、哲学や思想など難解な書物に挑み大いに語り合ったりもしたが、今は安っぽい物しか読まないらしい。この傾向はブラジルも同じではないかと思うのだが、日系社会の読書離れもかなり深刻である▼日系の本屋さんでは「文芸春秋」がよく売れたし、日本の古典や文学書も店頭に並び、これを求めて本棚を飾る「積読人」もそれなりに多かった。しかし、これも70年代がピ―クであり、それからは下降の道を歩むようになったような気がする。古本屋もあり、ちょくちょく店を覗いた。うずたかく積まれた古本の中から―これはと思う本を見つける喜びもあったし、真に楽しかった記憶が今も心の奥で鮮やかに色彩を放っている▼先だって作家・醍醐麻沙夫さんが書いていたが、コロニアで出版されたものでは、佐藤初枝さんの「料理の本」がベストセラ―なのだ。この話は日伯文化連盟の事務局長だった故椎野二郎さんからも聞いたが、恐らく嫁入り前の娘さんらが、この本を片手に料理の勉強に励んだのに違いない。それが今や人文研が刊行する叢書でも2000部を売り尽くすのは至難ではなかろうか▼日系の本屋さんの店先もすっかり変わってしまったのも、喜んでいいものかどうか―である。老舗の「太陽堂」も改装し店に置くのも手軽な本になってしまったのは、いささか無念の気持ちもする。これも―時の流れなのだろうけれども、寂しいの思いもする。(遯)

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