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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年1月24日付け

 「日本に来て十年も十五年も経つとすっかり日本食に慣れちゃうから、ブラジル人への売上げは減るばっかりだよ」。これは二十一日付けエスタード紙の日本移民百周年特集号で、群馬県大泉町にあるブラジル食材店の老舗「キタンジーニャ」の社長、新垣修さん(二世)が語っている言葉だ▼彼自身が在日二十一年の古株で、同店舗は、現在では日本全国に何百とある同種店舗の先駆けだから重みがある。同店のインターネットを通した売上げの実に三五~四〇%が、ブラジルファンや多国籍企業で働いている日本人だという▼この話を読んで、少々感慨深い思いをした。実は私も十余年前にこの店で働いた経験があるからだ。当時はまだ日本人の客は珍しかった。たまに東京からCDなどを買いに来る、ブラジル音楽マニアがチラホラいた程度だった▼インターネット販売が始まった〇三年以来、どんどん日本人客が増えている。元々は完全に在日ブラジル人コミュニティ向けの店だったのが、ホスト社会の日本人をも顧客として取り込み、両国文化交流の一端を担っているのは心強い▼あの当時、店にきて「日本の醤油はまずい。サクラとかヒノデは置いてないのか?」と尋ねる日系人がいて驚いた。発祥の地の味より、生まれ育ったブラジルの醤油がうまいという日系人の感性に当時は驚嘆した▼渡伯したばかりの日本移民にも、最初の頃はリングイッサを「臭い」と感じて食べなかった人がいたと聞いた。あのデカセギも今では「日本の醤油の方が美味い」と言うようになっているだろうか。このようなプロセスが移住そのものだ。(深)

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