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■記者の眼■デカセギと恩赦を再考=どうする日伯の人材交流

ニッケイ新聞 2008年11月14日付け

 米ニューヨークタイムス九日付けは愛知県保見団地を取材し、「日系ブラジル人は日本の移民受け入れのテストケース」との見出しの記事を配信した。同団地は九千人近い住民の半分弱が外国人ということで有名。もちろん、外国人の大半はブラジル人だ。
 金融危機の真っ只中にあるこのタイミングで、ブラジル政府が十年ぶりの特赦(恩赦、アニスチア)を検討との報道は興味深い。(本紙十三日付け二面に掲載)
 その背景には、移民受け入れを厳格化させつつある米国やEUの傾向に対して、移民送り出し側で、新興国のリーダーたるブラジルが「私は無資格滞在外国人を合法化するから、先進国も考えてみたら?」という独自の人道主義を実行する意気込みが感じられる。
 日本ならビザなし滞在外国人は、居るだけで「不法滞在」という犯罪者のレッテルを貼られるが、ブラジルでは「居るだけなら犯罪ではない」という常識の相違がある。
 世界の四十人に一人が移民というグローバル化の波は、そう簡単に止まるものではない。移民受け入れを厳格化させることは、立場の弱い無資格滞在移民を増やし、奴隷労働の状況に追いやる危険性があるというのがブラジル側の考え方だ。
 例えば日本なら、景気が悪くなるほど合法滞在ゆえに〃高給〃となったブラジル人の代わりに、無資格滞在の外国人を安くこき使うことが予想される。法の網の外にいる彼らへの人権的な配慮はないがしろにされがちだ。
 外交は対等互恵が原則だ。ブラジルが国内の外国人に恩赦を出すことは、外国にいる無資格滞在ブラジル人への恩赦を求めることでもある。ブラジル政府が恩赦を考える機会に、日本政府も無資格滞在の在日ブラジル人に恩赦をあたえることが検討できないか。
 同時に、若者が二年程度お互いの国に滞在でき、必要書類の少ない交流ビザを作る検討をするのも意味がある。
 日本が年々人口減少する時代を迎え、外国人受け入れの検討を本格的に始めた矢先の金融危機だが、これは日系人との関係を問い直す好機だ。
 ほぼ毎日、日本各地から「デカセギが大量失業」とのニュースが流れてくる。不況だからといって、日本の生活になれて永住傾向を高めた彼らを帰伯させることは、長期的に見て日本の利益に合致しない。彼らは日本が気に入ったからこそ永住者資格をとった。
 いずれ日本が外国人を受け入れる流れにあるのなら、適応しつつある彼らを帰国させて、新しい外国人に入れ替えるのは時間の無駄だし、外国人をモノ扱いしているとのそしりは免れない。
 NYタイムスにある通り、日本人の子孫たる日系人の受け入れすらできないで、どう血縁もない外国人を受け入れるのか。日系人受け入れは、外国人一般のモデルケースでもある。
 今年は日伯交流年でもある。日伯の人材が安定した交流をできるよう図るのは、両国の国益につながる。
 日本の将来を担う労働者として誰を当てにするのか。そこに日系人をどう結びつけて考えるのか。二国間の交流をどう盛り上げるのか。せっかく誕生したブラキチ内閣ゆえに、長期的展望にたって真剣に考えてほしい。      (深)

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