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波紋広がる日系人ビザ制限問題=ブラジル労働大臣が抗議=施策の無効化求める=日米メディアも報道

ニッケイ新聞 2009年4月30日付け

 日本政府が打ち出した日系人支援策のうち、帰国費用として三十万円を受け取ったデカセギには「時限的」に就労可能な特定ビザを発給しない政策に関して、各方面からの反発が強まっている。日本国内でも東京新聞はじめTBS、毎日新聞、愛媛新聞などが報じたほか、ニューヨークタイムスも批判的な論調で記事を出している。さらに、二十七日にはブラジルのカルロス・ルッピ労働大臣が「施策の無効化」を求める公文書を送ったとブラジル国営通信が伝えるなど波紋が広がっている。

 本紙が「人道支援か強制退去か=日系人支援策巡り議論」(三日付け)、「日系人支援策=賛否両論、真っ二つ」(九、十日付け)と疑問を呈してきた帰国制限問題について予想を超えた波紋が広がっている。
 移民関連に詳しい移民政策研究所の坂中英徳所長はニッケイ新聞に、「日本へ再入国しないことを条件とする『日系人離職者に対する帰国支援事業』は憲法違反だ」との一文を寄せた。「行政運用上の処置として、その入国を認めないのは(中略)、他の一般外国人の入国手続きとの関係で日本国憲法に定める平等原則に反するのみならず、法治主義の原理原則にも反する」という。
 十八日のTBSでは「日系人に帰国支援金、支給条件が波紋」とのニュースが報道され、日系人の声として「あなたたちいらないから、日本から出ていけという感じ」との声を紹介した上で、中曽根弘文外相の「問題になっているとしたら、支援が伝わるように関係省庁に働きかけたい」という見解を伝えた。
 また毎日新聞二十一日付けによれば、日本最多のブラジル人集住都市である静岡県浜松市の鈴木康友市長が、この制度に問題があるとの認識を示し、「日系人として再入国できないのは問題だ」と二十日の記者会見で指摘した。さらに「旅費を戻せば、再入国できるとか、知恵を出す必要がある」とのべたという。
 ニューヨークタイムス紙は二十二日付けで「日本から外国人労働者を追放するための手切れ金」との見出しで、「日本政府当局によると、少なくとも百人の南米国籍の労働者は、日本に再入国できないと認識した上で帰国に同意したという」と伝えた。さらに川崎二郎元厚生労働大臣の「単純労働者の日本への受け入れをやめるべきだ」「日本は多民族社会になるべきではない」というコメントを掲載した。
 東京新聞二十六日付けでは、「三十万人を超え日本で住宅を購入する人も出るなど定住化も進んだ国内の日系人社会に、戸惑いや波紋が広がっている」という記事が報道され、群馬県大泉町在住のフリーライター橋爪エデルさん(41、二世)のコメントとして「政策の裏に、もう日系人は必要ないというメッセージを感じる」という声を紹介した。
 ブラジル政府からの反発も出ている。ルッピ労働大臣はブラジル国営通信二十七日付けで、これに抗議して「無効化」を求める公文書を日本国大使館に送ったとし、「ブラジル人労働者を不正に扱うこの施策は、日伯間の歴史的な絆にそぐわない」と記事中で語っている。
 同通信によれば、国家移民審議会が提案した在日ブラジル人支援策を、同大臣は承認した。その中には、人材派遣会社の合法化、デカセギ問題を専門に扱う両国レベルの委員会の創設、「ブラジル人労働者の家」設置などがある。さらに、連邦貯蓄銀行と提携して日本にいながらFGTS(勤務年限保障基金)を緊急引出しできるようにする案や、帰伯者に職業訓練して再雇用を容易にする支援センター設置なども提案された。
 なお二十九日正午現在、ブラジリアの日本国大使館は同労働大臣の書簡を受け取ったことを明らかにし、「現在、分析中。その後、対応を考えたい」としている。

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