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どっちが本当の献上柿?=益田氏の山本賞功績に異議=西尾氏記念誌の間違い指摘=「ピエダーデの柿でいい」

ニッケイ新聞 2010年1月8日付け

 昨年8月に移民百周年を記念して出版された、農業発展に貢献してきた人物を表彰した山本喜誉司賞の受賞者の経歴をまとめた『山本喜誉司賞の歩み』(同賞記念誌編纂委員会編)の記述に、異議を申し立てに西尾之(ゆき)・章子(ふみこ)夫妻(ピエダーデ在住)が昨年末、文書を編集部に持参してきた。改めて関係者に話を聞き、当時の状況を検証してみた。

 西尾夫妻の主な異議は08年に第38回同賞を受賞した益田照夫氏の功績の部分(185頁)。益田氏の功績にある次の3点。(1)「天皇陛下にピエダーデの柿を献上し絶賛されたという逸話は益田氏の名声をいやが上にも高め」、(2)「早生種甘柿『東京御所』の導入とその市場拡大に貢献」、(3)「品種改良」。
 これは、ピエダーデ文化体育協会(神村マリオ会長)から出された紹介文に基づいて書かれている。同夫妻は「歴史に誤りを残したくないと考え、重い腰を挙げました。記念誌の発行を知り、一度載ってしまうと取り返しがつかない」と異議申し立てに踏み切った理由を説明した。

2つあった〃献上品〃

 (1)献上に関して、益田氏は97年当時、ピエダーデ柿生産者組合の会長をしており、「みんなに柿を持ってくるように呼びかけたが、誰も出さなかったので自分のを持って行った」という。
「西尾さんは会員じゃなかったが、ピエダーデの箱で一緒に持って行きませんかと誘った。でも、自分の箱があるからと断られた」。そして「陛下が宿泊されているホテルにピエダーデの箱で9箱を持って行っていくと『公には受け取れない』としながらも領事が受け取ってくれ、ホテルのスタッフもすごく喜んでくれた」と思い出す。
 その顛末は、本紙ピエダーデ柿祭り特集(99年6月19日など)で、益田氏の言葉を元に「両陛下ご来伯時に献上」などの記事として掲載され、その時に〃献上柿〃として紹介されたことから、益田氏の故郷の愛媛新聞にも報道された。
 ところがご来伯時には、西尾さんも独自に2箱を、在聖総領事館を通して献上していたことが分かった。「文協の安立仙一事務局長(故人)が推薦し、うちのフレゲース(常連客)が総領事館に持って行ってくれ、総領事秘書まで届いている」と西尾氏は明らかにし、「益田氏は献上話を日本でもあちこちでしているようだ」と疑問を呈する。
 一体、どちらの柿が実際に供せられたのか。
 当時、シーザーパークホテルで両陛下に直接対応した関係者に確認したところ、「〃ピエダーデで日系人が生産した柿〃として届けられた。特定の生産者名はなかった」と証言する。
「デザートで富有柿を召し上がった皇后陛下は大変お気にいられ、その晩、『明日の朝、私が陛下にお剥きして差し上げたいので、丸ごと一つ用意してください』と申しつけられましたので、その通りにしました。翌朝ご出発される時、皇后陛下から『陛下は美味しくいただきましたと伝えてください』とのお言葉を賜りました」と振り返る。
 同関係者は「〃ピエダーデの柿〃でいいのではないでしょうか。美味しいと喜んでいただけたのは事実です」という。
 益田氏は「西尾さんも持って行ったということは、今回初めて知った」という。「陛下がどれを食べられたか知らない。別に〃益田の柿〃とか新聞に出る必要はなかった。私は別に〃ピエダーデの柿〃でいい。それで十分」とコメントした。
 なお在聖総領事館に問い合わせると、「正式な献上は基本的にお断りしているはず。ホテルがデザートとして出したとしても、それが『献上品』としてかどうかは分からない」という。
 どちらの柿だとしても、正式な献上というよりは新聞が命名した〃献上柿〃だったようだ。

「導入」の解釈の違い

 (2)の東京御所の「導入」に関して、西尾さんは「穂木の提供者は、育種親である元東京都立農事試験場の土方智先生。1986年にアルゼンチンに行く途中、一本はコチア産組、久我建二技師を通じて西尾へ、他の一本は土方先生の知人を通してモジの細谷幸夫さんに届けられました」と説明し、「導入は、あくまで土方先生のご厚意によるもの」との解釈を強調した。
 西尾夫婦は2人で農園(東京御所100本、富有75本)を切り盛りし、少量だが高品質な柿を生産していることで知られる。
 一方、益田さんは「僕も久我さんから原木をもらっている。接ぎ木して3年で今の3アルケール、4千本まで増やした。セアザでマスダと聞いてもらえば分かる」と胸を張る。全栽培本数は7千本になるという。
 益田さんは「日本からの導入ではなく、経営に導入したという意味」と強調する。「高品質でも量が少ないと市場からは見向きもされない。私はある程度の品質で、大量に生産することを心がけている」と語り、導入は「市場に定着させた」という意味だという。

「記念誌の間違い」

 (3)「品種改良」に関して西尾氏は、「通常、品種改良とは、交配による新品種の育成や枝変わりを見つけて種として固定すること意味するので、それに当たることはされていないのでは」という。
 益田氏に確認すると「私は品種改良していないし、そんなこと言ってない。品質向上だったらいいけど。今回できた記念誌が間違っている。ピエダーデ文協の推薦書にもそんなこと書いてない」と応えた。
 西尾氏の「とにかく功績を訂正してほしい」との主張に対し、山本喜誉司選考委員会の高橋一水委員長は、「たしかにピエダーデ文協の推薦状にはその辺のことは書いてなかった。後から来た紹介状の内容から引いて功績を書いたようだ。品種改良の部分は削除し、正誤表に載せる。あやまりたい。その他の件は委員諸氏と検討を続けたい」と答えている。

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