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百年史農業編=金銭返却問題が泥沼化=田中氏「6千しか払わない」=編纂委「あくまで全額を」=法的手段視野に対応

ニッケイ新聞 2010年6月25日付け

 日本語版ブラジル日本移民百年史の農業編の元調整役、田中規子氏と同史編纂委員会との金銭問題が泥沼化しつつある。契約不履行・原稿未提出を理由に、調整役とともに執筆者としても解任された同氏に対し、編纂委は先月7日、農業編に使用された2万3651レアルの返還を要求した。今月10日に締め切りだった返還要求に対し、同氏は9日付け文書(百周年協会10日受け取り)で、請求額のうち6749レアルしか払わないとのポ語文書を返信してきた。これを受け、編纂委および百周年協会は協議の結果、譲歩することなく全額を請求する書面を送り返したが、期限を過ぎても返答がこず、しびれを切らしている。

 「全く責任を感じておらず、人に迷惑をかけたとも思っていない。話してものらりくらり。これでは厳しい態度に出るしかない」。百周年協会の松尾治執行委員長は怒りを抑えながら、ため息まじりに話す。
 百周年協会が要求している金額には「全く必然性、当然性のない出張費用も含まれている」(森幸一編纂委員長)が、田中氏が支払いを拒否しているのは主に原稿料の部分だ。
 田中氏は9項分の執筆を担当してきたが、期限をすぎてようやく送ってきたのが3項分のみ。年初以来、数度に渡って提出期限を延長してきた上にこの状態であり、編纂委員会では約束不履行と見なして原稿料の返還を要求している。
 9日付けの田中氏文書はポ語で書かれており、弁護士に相談したものと見られ、百周年協会で会計を担当する蛯原忠男氏は「素人の文章ではない。変に回答すると揚げ足を取られる可能性もあるので、きちんと対応していかなければならない」と考慮する。
 さらに「仕事がし易いと思って金銭の支払いも便宜を払ってきたのに…」と好意を逆手に取られた状況に声を落とし、「(2度も謝罪文を送った)JICAにどうやって釈明すればいいのか―。本人が謙虚な気持ちになって詫び状でも書いてくれればいいけど…無理でしょうね」と頭を抱える。
 百周年協会では顧問弁護士の西尾ロベルト氏に相談の上、全額返済を旨とする書面を作成し、16日に田中氏の住居まで届けた。
 田中氏文書には、百周年協会が書類を受け取ってから10日後に振り込みをすると、本人が期日を指定している。ところがその20日までに振り込みはなく、松尾執行委員長は「何の返事もない。法的手段も視野にいれて対処していく」と怒りを隠さない。なお、あわせて請求していた農業編担当執筆者らのデータ原稿も未提出のままだという。
 この事態を受けて編纂委員会では急きょ、農業編を最初に刊行する予定を変更し、『生活と文化1』編を年内刊行すべく準備を進めている。

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