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コラム展望台=亜・ベ肉体関係=不明の原因はそこから

ニッケイ新聞 2010年9月3日付け

 【らぷらた報知=亜国ブエノス・アイレス発】エドワルド・ドウアルデ臨時大統領の用意した2003年の大統領選挙ではネストル キルチネルとカルロス・メネムは互いに政敵の関係にあった。一方はポプリスモ、他方はネオ リベラリスモと政治イデオロギー的には正反対の極にあったものの、その対外政策には共通点が多く見られる。
 メネム元大統領の対外政策米ソの中間を行く〃第三勢力〃を目指したペロニスモの伝統に反する「米亜肉体関係」と呼ばれる〃米国一辺倒〃であったがキルチネル夫妻大統領のそれは「亜ベ肉体関係」と形容される〃ベネズエラ(チャーベス)一辺倒〃で対象国は異なるが共に〃RELACIONES CARNALES〃である点では同じと言える。
 特にチャーベスのベネズエラとキルチネルのアルゼンチンの関係では短期間に多くのスキャンダルを生み出したという点でメネムのそれを遥かに上回ると言ってよい。
 その実例としてESTUDIOS NUEVA MAYORIAの調査した資料を見ると正に〃衝撃的〃と言ってよいものがある。
 アルゼンチンとベネズエラとの間で締結された協定の中、その65%がネストル キルチネル前大統領とウーゴ・チャーベス現大統領との間のそれであるということを挙げただけでも記録的だが、この傾向はネストル・キルチネル前大統領の女房であるクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル現大統領の代になっても受け継がれ、クリスティーナが大統領となった2008年から2009年に至る2年間にチャーベスのベネズエラと結んだ協定の数は94で、亭主ネストルのそれを50%上回っている。
 ベネズエラとの協定は茲2ヵ年の間にブラジルとチリのそれの3倍となっている。その中、何処までがイデオロギーによるものであるか純粋に政治的経済的なものであるか専門家ですら見当がつかない程である。
 キルチネル前大統領がチャーベスのベネズエラへの接近は政治的イデオロギーよりも経済的理由にもとづくものである。両者は経済活動に対する国家の介入の必要を唱える点で共通点を持つがチャーベスのベネズエラがボリバリアーノ・スタイルの新しい社会主義を唱えフィデル・カストロのキューバに接近するのに対しキルチネルのアルゼンチンは中道左翼もしくはポプリスモの旗印を掲げるものの、基本的には資本主義と定義しておりカストロのキューバと近寄らず遠からずの関係を保っている。
 にも拘わらずキルチネル前大統領が急速にチャーベスのベネズエラと〃肉体関係〃を結ぶ迄に至ったのは、当時アルゼンチンは2001年来のDEFAULT(対外債務支払停止)の危機のあとを承けて、国際金融市場から締め出されクレジットを得られない状態にあった。そこへ援助の手を伸ばしてくれたのがチャーベスのベネズエラであったのである。
 勿論、無償ではない。当時、新社会主義を唱えイデオロギー的に〃アメリカの孤児〃であったベネズエラを政治的に支持し高金利で金を貸すという条件でである。他にすがる者とてない当時のアルゼンチンにとってチャーベスのベネズエラは〃救いの神〃であった。そこへ持って来て加わったのがエネルギー危機である。アルゼンチンのガス不足はベネズエラから送られて来るガスによって補われている。
 最初、ボリビアから買いつけていたが原住民族出身のエヴォ・モラーレス大統領の登場によってガス価格が高くなった。そこで専らベネズエラから買い付けるようになった。
 クレジットとエネルギーによって、アルゼンチンはベネズエラに縛りつけられてしまったのである。フーリオ・デ・ビードの主宰する企画省の官吏たちによって構成され〃汚職〃の温床となった〃FIDEICOMISOS〃(信託処分)誕生の元となったのがそれである。
 今日、「並行外交」乃至「二つの大使館」として問題になっている組織的汚職スキャンダルで有名となった。これを暴露したのは元駐ベネズエラ大使エドワルド・ サドゥースである。サドゥース元大使はベネズエラとの商売を行うに当ってFIDEICOMISOSから企業家に要求される賄賂を婉曲にRETORNO(返礼)と言う言葉で表現しているが〃ベネズエラ・ゲイト〃と呼ばれて国会で問題にされていることは周知の通り。
 その外、未だに明らかにされないマイアミ在住のベネズエラ企業家ギード アント二―ニ・ウイルソンなる謎の人物による80万ドルの不正持込事件などもある。ウイルソン自身、80万ドルはクリスティーナの大統領選挙資金であったと告白しているが事件はウヤムヤにされている。これなど、チャーベスのベネズエラとキルチネル夫妻のアルゼンチンの〃肉体関係〃を証明するものである。
 とにかく、チャーベスとキルチネル夫妻の介在する問題には〃不明なこと〃が多い。
 今回のベネズエラ・コロンビア危機にUNASUR調停会議におけるキルチネル事務総長とチャーベス大統領の不可思議な〃欠席〃もベネズエラとアルゼンチンの〃肉体関係〃を証明するものと言ってよいのではないだろうか?  (高)

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