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ようやく1冊目を刊行=百年史『生活と文化編』=女性史など独自の視点も=3月末着荷で予約受付中

ニッケイ新聞 2011年3月1日付け

 「ようやく1冊目が完成しました。ぜひみなさんに見て欲しい」。移民百年史日本語版編纂刊行委員会(森幸一委員長)が07年から進めてきた最初の刊行『ブラジル日本移民百年史』第3巻「生活と文化編(1)」(風響社)が昨年末日本で刊行され、先ごろようやく飛行機便で10冊ほどの見本が届き、松尾治百周年協会執行委員長は来社してそう喜びを伝えた。全5巻の1冊目で、今回刊行された第3巻だけでも650頁という記念誌史上最高の厚さを誇り、今後続々と残りの4冊が刊行される予定だ。

 豊富な具体例を示しながら、分りやすく一世紀分の流れを50頁に要約・俯瞰した第1章「日系ブラジル文学史概要」(細川周平国際日本文化研究センター教授、『遠きにありてつくるもの』で読売文学賞受賞)。
 最初の邦字紙週刊「南米」の秘話から戦後邦字紙の創立経緯やラジオ時代、日系テレビ全盛時代を経て現在のデカセギ向けポ語新聞テレビまでの流れを、現役の邦字紙記者が内幕からの視点でまとめた第2章「日系メディア史」(深沢正雪ニッケイ新聞編集長、160頁)。
 日本語教育の歴史を追いながら戦前の「日本臣民形成」の場としての役割、戦後の考え方の大変化、日本語教科書編纂による「コロニア語発見」などの文化人類学的な視点を交錯させながら執筆された第3章「子弟教育の歴史」(森脇礼之だるま塾塾長、古杉征己人文研理事、森幸一USP教授、100頁)。
 今巻最大の特徴とも言えるかつてない独自の視点、第4章「女性史」(中田みちよ『ブラジル日系文学』編集長、高山儀子=料理エッセイスト)では、従来の男性中心の歴史ではなく、女性の目から見た「移住」がまとめられている。中でも家庭の中での文化継承の役割、婦人会の結成、勝ち負け抗争時、軍事政権下など、その時々に応じてコロニアの縁の下を支えてきた歴史が語られる。
 第5章「日系食文化の歴史」(森USP教授)では、コロノ時代から始まって徐々に充実していく日本食や代用食の歴史を辿る。日本移民のみの存在だった過去のあり方から、一般に嫌悪されていた生魚食をブラジル社会に受け入れさせるまでになった歴史を、料理人の努力はもちろん料亭、日本料理店、セアザなどの流通の役割も検証しながら概観している。
 松尾執行委員長は「百周年記念事業はまだ終わっていない。資金協力していただいたみなさんに感謝したい」とのべ、編纂委員会と協同してきた史料館の栗原猛運営委員長も「本編としては最初の一冊、ぜひ手にとって欲しい」と進めた。
 08年4月には同じ風響社から写真集『目でみるブラジル日本移民の百年』(同編纂委員会・史料館編、太陽堂、カーザ小野、高野書店、竹内書店など各日系書店で販売中)が別巻として刊行されているので、実際には2冊目の刊行物だ。
 2月に到着したのは見本だが、頒布用の約540冊は船便にて輸送中で3月末ごろには到着する予定。日本では8千円(税抜き)で販売しているが、当地では特価の150レアル前後で頒布すべく同委員会は検討を進めており、日系各書店ではすでに予約受付けを始めている。
 今後刊行が予定されているのは『生活と文化編(2)』(今年末刊行予定)、永田翼、栗原両氏を執筆・調整役に作業が進行中の『産業史』(12年上半期)、農学博士の生田博氏やJATAK元聖支所長の馬場光男氏を中心に体制を建て直した『農業編』(12年末)、森編纂委員長を中心に作業が進む『社会史(総論)』(13年3月)だ。
 全5巻刊行までにかかる総支出は49万レアルだが、現在の残高は3万レ余り。40万レ以上の不足分は今後、松尾執行委員長、蛯原忠男会計担当らが助成機関や団体、個人に支援を仰いでいく考えだ。

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