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刊行=『戦時下の日本移民の受難』=出版記念会、約百人が来場=著者 安良田済氏「最後の奉公に」

ニッケイ新聞 2011年5月21日付け

 コロニア文芸界で活躍してきた安良田済さん(95、山口)の著書『戦時下の日本移民の受難』(日ポ両語)の出版記念パーティーが14日午後、文協ビル9階の移民史料館で行われ、約100人が来場した。
 開始時間前から多くの人が会場を訪れ、安良田さんが会場に現れると、笑顔で握手を交わした。
 同書は、安良田さんが約1年半かけ、戦時下に日本移民が体験した苦難を、個人の日記を中心に掘り下げた意欲作。
 200冊が史料館に寄贈されたことを受け、同館の栗原猛運営委員長が謝辞を述べた。
 安良田さんはあいさつで、「わずか4年だが、とても濃厚な歴史。記録しなければ時とともに風化し、歴史にならないと考えた」と出版の理由を述べ、「自分は物書きではなく、文芸を愛する人間。本に価値があるかどうかわからない。二、三世に様々な意識を植え付けられれば」と語った。
 乾杯の音頭を取った息子のエドゥアルド氏は、「父は不屈の精神の持ち主で本当の意味での歴史家。いつも新聞記事を切り抜き、物事の根源を辿る作業に励んでいた」と尊敬の念を示し、「日本語を読めない家族のために本を書いてくれた」と言葉を詰まらせた。
 姪の竹内文江さん(77)は、「亡くなった母が生きていたら、本の出版をとても喜んでいたと思う」と話す。
 安良田さんは執筆中、毎日早朝から深夜まで作業を続け、脱稿後に急に視力が低下。今はモニターに文字を大きく写して読める機械で新聞などを読んでいる。健康状態は大変良好で、毎朝40分の運動を欠かさないという。
 2つのテーマで現在も資料を収集しているという安良田さんは、「視力の低下で不安は感じるものの、また本を出せれば」と旺盛な執筆欲を見せていた。
 なお、当日の売り上げは全て史料館に寄付された。

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