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コロニア高齢貧困者の現状=(下)=孤老の多くは元構成家族=地方のINSSで申請も

ニッケイ新聞 2012年2月24日付け

 「寝たきりで介護が必要な高齢者がいるがお金がなく施設に預けられない、という人に対しては、家族が面倒を見るという条件で、毎月最低賃金を渡すなどの援助をすることもある」
 1969年から36年間援協職員として働き、定年退職後は役員も務める山下忠男氏は「30年前までは、リベルダーデにも日系の物乞いがたくさんいたが、今は減った。一人も家族がいない人が減ったのかも」と推測する。
 家族の中で働き手が3人いないと移住できなかった時代、構成家族として来伯し、独立後も結婚せず、そのまま年を取った、いわゆる〃孤老〃状態の人が少なくなかったという。
 (何らかの問題で)家族を捨てて家を飛び出し、長い年月を経て戻ったものの受け入れられず、身寄りを失った人もいたようだ。
 福祉部が、かつて住んでいた地域の文協や総領事館、出身の県人会などにあたり身内を探すこともあったが「見つかっても引き取ってくれないことも多かったですね」。
 2、30年ほど前は、援協傘下の福祉施設に入居するさい、家族もおらず入居費を支払えない人の代わりに福祉部が年金手続きを行ない、その9割を施設に納める方法が取られた。「より審査の緩い地方のINSSで申請したこともある」と明かす。
 最初の老人施設がサンパウロにできたのは1971年。身寄りがなく、極貧状態にあった高齢者約30人を受け入れ、全面的に面倒を見てきた。
 現在援協傘下の福祉施設にサントス厚生ホーム、カンポスさくらホーム、あけぼのホーム、やすらぎホームなどがあるが、スザノ・イペランジャホーム以外のこれら施設では、入居費を全額負担している人は概数で全体の約20%、一部だけ負担している人は約30%という状況だという。
 援協事務局によれば、近年では一世の入居者は減少傾向にあり、二、三世、非日系の入居者もいる。ここ数カ月のデータでは、これら施設の平均扶助率(援協が入居費を負担している率)は、40〜60%台と高い数値を推移している。
 高齢者向けに様々なサービスを行なう福祉部には現在、月に1千人程度が出入りしているが「80%はそこそこの生活ができているのでは」と山下氏は見ている。
 同福祉部で法律相談を受け付けている内中マリ弁護士に、本連載(上)で紹介した家族のケースについて聞いたところ、経済的に困っていれば、その余裕がある場合、家族が援助する義務があると法律で決まっているという。
 「息子さんたちに本当に余裕がないかどうか、が問題でしょう。良い方法とはいえませんが、訴えることも法律的には可能です」。
 一般に、一部で深刻な貧困問題を抱えるブラジルにおいて、日系人は裕福で比較的良い暮らしをしているというイメージだ。
 しかし表に出てこないだけで、当然ながら全員が全員、豊かな暮らしをしているわけではない。山下氏の話を聞くと昔に比べ、コロニアの貧困者の状況は改善しつつあるかという印象も受けつつも、厳しい状況に置かれた高齢者移民は少なくないようだ。(田中詩穂記者、おわり)