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中村 勉の時事評論=イビウナ庵便り=70億市場を相手に=企業にも新しい波

ニッケイ新聞 2012年5月30日付け

 20年前のブラキチ達(ブラジル狂)は、ブラジル情報が少ない(特に日本に於いて)ことを嘆いたものだった。一筋縄ではいかないブラジルが何故か好きで、専門家の解説や分析を求め、少ない情報を分かち合った。今や、ブラジル情報は世界に(日本でも)溢れ、事情を知ろうと思えば、事欠かない。このような日が来るとはブラキチ達も予想もしなかっただろう。
 ブラジルのインフレは年率5%で落ち着き、レアルの対米ドル為替はUS$2・0内外、実質金利は年率2・3%、GDP成長率は2011年2・7%、2012年予想3・4%と低い。数ヶ月前に誰が、伯国の金詰り→インフレ圧力の懸念なし→金利引下げ景気刺激等のシナリオを描き得ただろうか? 無論、低金利+財政赤字でも景気浮上に苦労している日米欧の事情は承知している。
 世界人口70億人の凡その内訳は、BOP(ベース・オブ・プラミッド=世界の所得別人口構成の中で最も収入が低い所得層のこと)の年間所得は3千ドル未満、ミドルクラス(中流所得層)3千ドル以上2万ドル未満、富裕層は2万ドル以上として、BOPが42億人、ミドルクラスが26億人、富裕層が2億人という。この中の、ミドルクラス人口に先進国と新興国の間で異動が起っている。先進国で減少、新興国で増大と観察されている。
 新興国の強い成長力は増大するミドルクラスの購買力に支えられているのに対して、先進国では拡大する貧富の格差がミドルクラスの減少を招き購買力を削いでいる。世界の許容可能なミドルクラス人口には限度がある故、ミドルクラスを巡って一種のゼロサムゲーム(複数の人が相互に影響しあう中で、参加者全員の利得の総和が常にゼロになる状況)が行なわれているわけだ。
 しかし、国家でなく企業の窓から見ると、異なる景色が見えてくる。株式時価総額(年末ベース)の世界一は、過去十年マイクロソフト、GE、エクソンモービルといずれも米国企業だ。今年3月末ではアップル社になっている(日経4月15日)。彼等はいずれも70億人の世界を相手にしている。1・2億人の美味しい国内市場にしがみつき官に守られながらガラパゴス化した日本企業とは対照的だ。日本流も見直しが迫られ、日本企業も変化しつつある。
 企業のもう一つの分類(スイスIMDドミニク・テュルパン学長)は、G7企業とG20企業という分類だ。先進国に高い比重を置く企業と新興国に大きな比重を置く企業と言い替えてよい。あるいは、伝統市場重視の企業と戦略市場重視の企業でもよい。勿論、元気があるのはG20企業の方だ。日本の企業に例をとれは、日産ルノー(自動車)、コマツ(建機)、大手商社(資源ビジネス)等の元気印はG20企業だという(日経4月10日、一目均衡)。そう言えば、昨年末ファーストリテイリング゙の株式時価総額がソニーを抜いた。又、日本の昨年の海外M&Aは前年度比2倍の7兆円、海外直接投資の収益も過去最高の3・7兆円になった、と報じられている。
 一人当たりGDPを眺めると、小国が高いことに気付く。世界一はルクセンブルグの105千ドル、鳥取県が何故まねられないのか、デンマーク56千ドルに北海道が何故なれないのか、淡路島はシンガポールに何故なれないのか、等々を考えさせられた。新しい波が押し寄せ、パワーシフト(財力や権力が実権の中心となってきた時代が終わり、知識や情報力を持つ者が支配力を持つようになるとの時代認識)が始まったように思われる。ヘクシャ・オーリンの定理は、商品移動が自由に行なわれれば、生産要素の価格は何処の国でも同じになる、と教えている。つまり、自由貿易はどの国の賃金率、利子率、地代も等しくなる方向に働く。この原理がグローバル社会で働いている、と見る。リカードの比較生産優位説とヘクシャ・オーリンの定理を学び直して、ものの見方を点検しなければならなくなったようだ。現在起っている「新しい波」を拾ってみた。

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