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世界邦字紙から=北米報知=米国ワシントン州=強制収容所の作品を展示=家族仲間への思い伝える

ニッケイ新聞 2012年6月2日付け

 【北米報知5月2日】第2次世界大戦下、日系人収容所内で製作された美術・工芸作品を集めた展示会「Art Behind Barbed Wire」がワ州日本文化市民会館(1414 S. Weller St., Seattle) で開催されている。日系人強制退去から70年が経った今、人里離れた荒野で鉄条網に囲まれて生活した日系人の3年間を一側面から伝えている。

 1942年、米国陸軍省に対し、地域を指定し、その地域内のいかなる人にも強制立ち退きを命じる権限が与えられるという大統領令9066号が発布された。法令の下に日系人強制退去が実行され、その数は、カリフォルニア州全土、ワシントン州、オレゴン州の西半分、アリゾナ州の南部から11万人以上に及ぶ。
 展示品の多くは、ワ州から多くが収容されたアイダホ州ミネドカ収容所とワイオミング州ハートマウンテン収容所で作られたものだ。コミュニティーの協力で集められた展示作品は200点あまりで、フィリピン在住の家族から送られてきた絵もある。
 展示品のなかでもひときわ大きく目を引くたんすがある。よくみると、木材に靴の跡やスタンプといった使用跡がある。スーツケースに最低限の持ち物だけを詰め込んで収容所に送られた人々が、家具のないバラック小屋で生活するため、廃材を集めて作ったのだという。
 机やランプもあった。プレゼントとして流行したというブローチも、廃材や拾ってきた貝殻を利用して作られたそうだ。多くに見られる鳥のモチーフには、鉄条網の向こうの自由な生活への希望が託されていたのだろう。
 展示されている工芸品はどれも精巧なものばかりで、その技術の高さには目を見張る。展示品には美しい日本人形もあり、歯ブラシで絵付けされてものだというが、とても信じられない。限られた資源を利用する、収容所の人々の高い技術と創造力には驚くばかりだ。
 収容者の日常のひとこまを丁寧に描いた絵や、家族との写真、戦地に赴く息子に作った千本針など、人々の強い絆を感じさせるものも多い。年季の入った手作りの囲碁盤と碁石を見ていると、囲碁を打つ人々の様子が見えてきそうだ。
 当時の人々が使用し、生み出した物に囲まれていると、まるで収容所生活を疑似体験したような気分になる。集められた作品は、厳しい環境の中でも家族を思い、仲間と支え合い、懸命に生きた収容者たちのストーリーを今に伝えている。
 作品は、築100年を前に改装したばかりの会館内の廊下や会議室など、建物全体を利用して展示されている。展示は来年7月までを予定している。今後もインタビューの様子を収めた映像を流すなど、展示を充実させるという。詳しくはwww.jcccw.orgまで。(記事・写真=福岡玲子)

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