(下)=5月にお告げ、7月渡伯

ニッケイ新聞 2012年9月29日付け

 今年の5月、突然「ブラジルへ行け」との〃お告げ〃が下った。「初めは頭が真っ白になったけど、行きますと返事をしました」。なんと「即日決断だった」という。
 「(◎◎のトップM氏が)たいした知識もない自分の名前を呼んでくださったのには、何か意味があると思う」と三波さんは言う。のこりの二人も強くうなずいた。
 仕事、家族はどうするのか——葛藤は後から怒涛の如くやって来た。高橋さんは「現実を考えたら、行けるわけがない。どん底だった」と4カ月前の苦悩を振り返る。
 一緒に暮らしていた両親は、「変なものにのめりこんで」と納得しなかった。それぞれが葛藤の末、20年前後も勤めた銀行を辞め、家族や恋人を置いて、それまで何の縁もなかったブラジルへ、永住の決意をもって7月下旬にやってきた。
 いったい、なにがその決断に踏み切らせたのだろうか。
 「◎◎に出会う前は、ゲームしても旅行しても、楽しさはその場限り。一体何のために生まれてきたんだろうと、ぼんやり考えていた」。そう伊藤さんは漠然とした迷いがあったと語る。後の二人も「楽しさの後には虚しさが残る」「生き方に苦しみ、もがいていた」との胸中を打ち明ける。
 三者三様に人生の充足感の欠如を感じ、不安感を抱えていた。現代日本の若者は、世界で最も資本主義が進んだ豊かさの中で育ってきたがゆえに、心の軸となる何かを失ってしまったようだ。
 3人は銀行の先輩に勧められて〃大事なもの〃を貰う儀式をへて入信し、活動を手伝うようになった。M氏の人柄に感銘を受け、その教えを真理と確信するに至った。彼女らは「人としてお手本になる方。ブラジルに来るほど信じたのは、M氏の存在があるから」と口を揃える。
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 後日、女性8人が共同生活を送るガルボン・ブエノ街の活動拠点を訪ねてみた。居間の入り口には仏壇に似たものが置かれ、神の名前が書かれた額や観音の写真が壁に掛かっていた。
 女性ばかりかと思ったら、実は男性も3人おり、他に住居を構えてこの拠点に通っているという。その一人、50代の男性を「一家の大黒柱だった方です」との説明付きで紹介してもらった。
 その男性はすらりとし、年より若く見える。卒業以来、営業マンとして勤め続けた会社を辞めて渡伯した。「僕は元々石橋を叩いても渡らないタイプなんですよ」と笑顔をうかべるが、よく話を聞くと、妻と子ども3人を残してきたという。
 「20数年前、仕事で壁にぶち当たり、生きるのが辛いと思った時期があった」。あちこちの宗教をジプシーのように渡り歩いたが、「どれもしっくりこなかった。全ての疑問に納得のいく答えが返ってきたのは◎◎だけ」と確信を込めていう。それぞれが悩みや迷いを抱え、この〃道〃に救いを求めた。
 〃大事なもの〃をもらう儀式の瞬間に「自分は救われた」と感じ、理屈抜きに「とてもいいもの」だと分かった。やがて「自分も人に伝えたい。人を救いたい」という気持ちが芽生え、それが渡伯決断を後押しした。
 人生への渇望感や空虚感が人を信仰へと向かわせるのか。彼らの話を聞くにつれ、日本社会は大変なストレスにさらされているのではという危機感がつのった。
 08年の世界金融危機、昨年は東日本大震災、大津波、福島原発——。北朝鮮からはミサイル、北はロシア、西は、韓国、中国から領土問題を突きつけられ、米国とは基地問題が募るばかり…。そんな閉塞感に満ち満ちた日本の本当の姿は、NHKテレビだけでは伝わらないようだ。
 「神との約束は絶対」と全てを投げ打って渡伯し、7月から新たな人生の一歩を踏み出した11人の運命はいかに——。(終わり、児島阿佐美記者)

写真=お祈りをするための壇/「自分は救われた」と語る50代男性

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