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領土問題愁うコロニアの声=1=日本の領土問題に思う=サンパウロ市 榎原良一(えのきはら・りょういち)

ニッケイ新聞 2012年10月17日付け

 日本の領土問題に関する様々な声がコロニアに渦巻いている。通常は読者投稿欄「ぷらっさ」に掲載すべき内容だが、あまりに同様の内容に関する投稿が多い時流にかんがみ、特別にその幾つかを6面に不定期で掲載することにした。我こそはと思われる方は「編集部(児島、深沢)」まで、手紙もしくはメールをお寄せください。なお、投稿が全て掲載されるとは限りませんので、あらかじめご了承を。基本的には1千〜2千字以内厳守をお願いしたい。(編集部)


 最近の日本は、今迄の弱腰外交のツケが廻って来たのか、隣国との領土問題がほぼ同時発生し揺れに揺れまくっています。そして、ブラジルに住む私達日本人にとっても、この領土問題は対岸の火事では済まされる筈は無く、友人同士の食事会や飲み会等の機会を捉えて、誰もが口角泡を飛ばしこの話題についての持論を熱く語り合うのが昨今の日系社会の日常の光景にまでなって来ている感さえあります。

喧嘩を売られる側にも原因がある

 さて、如何して最近になりかくもこの様な隣国との領土問題が発生することになったのでしょうか? 私は、根本的な原因は、喧嘩を売って来る近隣諸国よりも喧嘩を売られる日本側にある気がしてなりません。その根本的な原因とは、日本人の領土意識(祖国への誇り)の希薄さであり、その希薄さが近隣諸国にお見通しという非常に情け無い現実であります。
 過去、私は銀行帰りに強盗に狙われたり、街中で引ったくりにあった経験が何回かあります。そして、その不幸な出来事に遭った時は、「自分にはそんなことは起きないだろう」という慢心な考えや油断な心が常に自分の中にあり、プロである加害者も私の無防備さを一瞬で見抜き、即ち、起こるべきして起こった出来事と自己分析しています。領土乗っ取りと引ったくりを一緒にしては不謹慎と言われるかもしれませんが、事の大小に関係無く何事にも因果関係は存在します。
 では、如何して今の日本人は領土意識が希薄になってしまったのでしょうか? 如何して日本は独立国家としての気概を失いかけているのでしょうか? 私は、根本的な原因は、終戦直後米国に押し付けられた日本国憲法と日米安保条約にあると思っています。
 即ち、自分達が作った憲法では無くても、自分達が国を守らなくても、戦後日本が自身のたゆまない努力によって世界第2位の経済大国を成し遂げてしまった事実です。その結果、日本人の心の中には、「永久に、日本は米国が守ってくれる」という勘違いが根付いてしまいました。経済大国という勝ち取ったものも大きいが、一方、その代償として「独立国家としての気概」を失いかけている事実には、憂うべきものがあります。
 さて、隣国諸国との領土問題は、どのようにして解決して行けば良いのでしょうか? 例えば、日本政府は、「尖閣諸島は、歴史上も国際法上も日本の領土であることは明白であり、この考えはブレることのない日本政府の基本姿勢であり、今後も相手国や国際社会に粘り強く訴え続けて行く所存です」と言う常套句を繰り返しています。

日本人よ、明治の気概を

 しかし、領土問題は、理屈や理論で解決出来る程生易しい問題では無く、もっと泥臭い問題の様な気がしてなりません。では、如何したら良いのでしょうか? 私には、ここに来て失いかけている独立国家としての気概を日本が再び取り戻すことが重要に思えてなりません。司馬遼太郎の世界(小説)に登場する明治維新前後や明治時代の日本人が持っていた正しく日本民族としてのあの気概です。
 では、この気概を取り戻すには、如何したら良いのでしょうか? 矢張り、日本人が日本や日本人の素晴しさを再認識することにより、祖国日本への誇りと自信を取り戻すことに尽きると思います。但し、日本や日本人が全て素晴しいということではあり得ません。正すべきことは正すという謙虚な姿勢やその為の努力も必要になって来ます。
 更に、当然ながら、憲法改正や日本独自の軍事力も日本を取り戻す為の必要条件に加えられます。今、NHKで土曜スペシャルドラマ『負けて、勝つ 戦後を創った男 吉田茂』が放映されています。終戦直後の世界の政治状況から判断しても、戦勝国である米国から半ば強制的に押し付けられた日本憲法や日米安保条約を受けざるを得ない日本の状況は理解は出来る一方、その後そのまま60年以上も継続されている事実も日本の独立国家の気概の希薄さを物語っているようで残念でなりません。近隣諸国に隙を見せることになります。
 一方、領土問題の解決に向けては、上述した長期的な戦略の他に具体的な外交戦術が必要になって来ます。その基本戦術は、相手国の頻繁な揺さ振りに対して、其の都度適切且つ迅速な対応対処をすることにあります。
 特に、中国との尖閣諸島領土問題には、最悪の筋書きを考えれば、日本が中国の属国になってしまう可能性もはらんでいる、正に日本の存亡を賭けた問題であることに過言はありません。中国が具体的にこの様な野望を抱いているか否かは定かではありません。
 しかし、此処に来て減速している中国経済の行く末如何では、中国政府が、中国国民の不満の矛先を海外に向けさせなければならない事態の発生が充分に予想されます。その際の海外の矛先とは、言うまでも無く日本であることは覚悟しておく必要があります。

日米安保の確約をとれ

 更に、相手国への抑止力も必要不可欠になってきます。しかしながら、日本には抑止力の基本である独自の軍事力が備わっていませんので、当面は安保条約を上手に活用するしか手立てがありません。米国も「尖閣は日米安保の対象」と発言していますが、未だ有事が発生した場合に、「米国が日本を守ってやる」とは確約してくれていません。
 取敢えずの最も効果的な抑止力は、この米国の確約です。そして、その確約を何としても取り付けて、その確約を国際社会に強く発信することが重要です。「中国が脅威なので、日本も核武装を考える」と米国に揺さ振りをかけ、上記の確約を取り付ける戦術も選択肢に加えても良いかも知れません。
 更には、相手国の揺さ振りに対しては、其の都度即時強い態度で抗議・反論して行くことも基本姿勢として重要です。この積み重ねを少しでも怠ると、将来日本が取り返しの付かない状態に陥ることになります。勿論、日本の抗議・反論は、強く国際社会に発信しなければ、その効果は半減されてしまいます。国際社会を見方に付けなければなりません。
 最後にひとつ、日本からブラジルに移住して来た私達日本人についてです。各人の様々な事情や意思・価値観から、私達一世は日本からブラジルに永住して来ました。そして、永住後は弱肉強食社会が色濃いここブラジルで様々な苦渋を舐めさせられ、結果的に移住時に抱いた大志・夢と現実のギャップの為に、移住者によっては自身の移住が「やや不本意な移住」と結論付てしまっている方がいらっしゃるかも知れません。

移住者の生きる知恵

 しかし、私は、その様な方々には、このやや悲観的な結論を改め考え直すことをお勧めします。何故ならば、この競争社会ブラジルで、何とか生き抜いて来た私達には自分自身では余り気が付いていない生きる為の逞しさや知恵が備わっています。そして、この逞しさや知恵は、日本に住んでいても中々身につけれないものです。
 従って、移民先ブラジルにおいて、この生きる逞しさや知恵を備えられただけでも、私達の移住は成功と言っても良いのでは無いでしょうか? これからも胸を張り堂々とブラジルで生きて行こうではありませんか。更に、当然ながら、ブラジル生まれの日系人にも当てはまります。
 今、日本には多くの日系人が就労されています。その日系人の中にも、社会、文化、言葉等の乖離が原因で、日本に住む日本人に対して変に劣等感を感じてしまったり、卑屈になってしまったりで、やや肩身の狭い思いで就労生活を送っている方もいらっしゃる様にも聞いています。しかし、そんなくだらない思い込みは、取り払ってしまいましょう。祖国ブラジルで身につけたこの逞しさや知恵を誇りに、彼らにも日本で堂々と生活されることを切に期待します。

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