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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年11月22日

 ベネズエラ議会はマドゥーロ大統領に1年間限定で、議会を経ずに政策を打ち出せる特権を与えた——とのニュースに接して頭を抱え込んだ。Xマスを11月に前倒しとの報道にも仰天したが、議会がそんな特権を与えるとは…。選挙で選ばれた代議士の集まりである議会は、国民に代わって政権を監視する重要な役割を持つ。それを自ら放棄するとは「独裁政権を議会が承認した」のに等しい▼ヒトラーもムソリーニも最初は選挙で民主的に選ばれた政治家だった。結果的に独裁政権を作ったが、国民がそれを許し、望んだ部分があった。「政治家は国民の鏡」だ▼そんな歴史から学ばず、民主的な手続きによって独裁者を生んでしまうのは「民主主義の限界」か。国民の政治意識の未熟さ、自ら考えて政治に参加するのでなく、事態が複雑になったらカリスマを待望して任せたいという他力本願意識の表れか▼莫大な石油収入という〃打出の小槌〃に頼って国民迎合主義的になったチャベス路線を継承し、年率54%のインフレという経済難に直面したマドゥーロ。来年の国民総生産を劇的に上げるために、この特権を求めた▼経済規模を拡大するには、民間企業の活動を活発化させるのが資本主義の本道だ。独裁政権的な経済に大型投資をしようという民間企業がいるのだろうか。むしろ手を引くのが普通であり、更に経済沈滞にまっしぐらだ。マドゥーロはそれを外資系企業のせいにしてさらに攻撃…という悪循環すら予想される▼選挙で独裁者を作ってしまったら、それを止められるのは軍しかいない。今さら南米で軍事クーデターとは、いただけない話だ。(深)

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