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歴史を忘れたコミュニティはルーツを失う

 「黙祷すらしてくれなかったとは…。まだ一年も経っていないのに、もう忘れられたのかな。ちょっと寂しいな…」。電話の向こうから悲しげな声が聞こえてきた▼1年前の3月1日に心筋梗塞でなくなった国井精さん(つとむ、享年77、二世)は、母県山形とのスポーツ日伯交流に粉骨砕身した人だったが、先日の「少年・準青年野球大会」の記事で国井さんへの顕彰が何もなかったことを、その読者は深く嘆いていた▼05年春の全国選抜高校野球で、同県の羽黒高校が準決勝まで進出する快挙をなしとげた。その原動力になったのは、国井さんが送り込んだ日系ブラジル人トリオだった。惜しくもベスト4で涙を呑んだ試合の後、国井さんは宿舎に慰労に向かうと三人が抱きついてきたという▼国井さんの尽力で00年から同校への野球留学が始まった。4年目の03年、羽黒校は秋の甲子園に初出場し、岩国に6―0で負けた。その時に出場したサンパウロ州バストス出身のカルデラ・チアゴは、13年3月のワールドベースボールクラシックで、ブラジル代表が日本に惜しくもせり負けたときに活躍していた。いわば国井さんの〃教え子〃だ▼国井さんの父と兄は戦中に禁止されていた日本語の授業を行い、密告されて監獄島アンシェッタに流された。その志を引き継ぎ国井さんは聖西日本語教育連合会の相談役を約40年間も務めた。そんな熱い日本への想いの延長に高校球児の祭典があった▼先人の苦闘の歴史を忘れたコミュニティはルーツを失う。電話の声を聞きながら、あらゆる努力を払って、移民史を子孫に伝え続けるべきだと襟を正した。(深)

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