ホーム | 文芸 | 連載小説 | ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス) | ガウショ物語=(30)=娘の黒髪=《5》=目が覚めるほどの混血美女

ガウショ物語=(30)=娘の黒髪=《5》=目が覚めるほどの混血美女

 そのとき、わしらの頭の上の幌つき荷車の中から、話し声が聞こえ、若い娘の笑い声がした。そして、女がペチコートの音をたてながら降りてきた。
 膝を抱えて座っていたシルーは女の気配に気付くと、頭を垂れて顔を隠した……帽子は額と腕の間で押しつぶれた……。娘はわしらの前を通った……見たところ一人は眠っているし、今一人は間抜け面の男、つまりわしのことだが……。だが、煙と炭火の蒸すような熱さに目を細めながら、そのまま鍋をのぞきにいった。
 神様! 何という見ものだ!……
 それは目の覚めるほど美しくて利発そうな混血女だった……。はちきれんばかりに盛り上がった胸、しっかりした腰、優しいまなざし……それから、黒々とつやのある太い三つ編みの髪、その三つ編みがほどけかかって、背から膝のあたりまでで垂れ下がっている!……。
「いったい何でこの雌ギツネはわしらの隊長を袖にして、赤毛のいろ情婦なんかになったんだ?……」
 女も猫も甘やかしていると、引っかかれる……。恐らく、この赤毛が……恐らく口のうまい女たらしで……それとも、女がほしがった馬をくれてやったからか……もしかしたら……うちの隊長に飽きたのかもしれない……。まあ、そんなことはどうでもいいんだが!
 そこへ、べっぴん娘が火からおろした鍋を下げて荷車に戻っていった
 シルーはわしに顔を寄せて、
「女はわしを見て、愕いた様子はなかったか……」と小声で聞いた。
「いいや……目もくれなかった……。でも、けた外れにすごいべっぴんだなあ!……」
「黙れ……じきにお祭り騒ぎが始まる。気を引き締めるんだ。」
「おれは彼女と踊るほうがいいな……」
「マテに誘ったあの二人はもう来ないぞ……」
「二人って、歩哨のことか」
「そうだ、隊長はやつらを消したに違いない……隊がすぐそばまで来ている予感がする……」
 言い終わらないうちに森の陰から兵士が一人、恐ろしさと疲労でよたよたと歩きながら、ようやく歯と歯の間から言葉を押し出した。
「ファラッポスだ! ファラッポスだ! ジョアン・アントニオがやられた!……」
 銃声が響いた……弾丸がピューと音を立てて飛んだ……政府軍の兵士が倒れ、足をばたつかせていた。
 のろまなカラムル軍に向って、銃弾の雨が降り注いだ。
 わしは赤毛男を引っとらえるために荷車の後ろから飛び込んだ。だが、それより早く、やつはもう飛び出していた……手綱もない、足綱のままの裸馬に飛び乗ると、平手で馬を叩きながら、逃げ去った。
 そして、隊員に向かって喚いた。
「農園だ!農園へ行け!」
 言うなり、サーベルの刃で馬をたたいた。その様子が、わしにはやつがこういう早業に慣れていると見えた。
 それでも、わしは男を捕まえようとしたが、シルーは大声で
「放っとけ!放っとけ!間に合うもんか」と言った。
 当然だが、女はこの光景を見て、身の危険を感じた。森へ逃げ込むために荷車から飛び出そうとした。だが足が地面に着くより早く、ジュッカ・ピクマンの手が大アリクイの爪のように女の腕を掴んだ……。
 混血娘はさほど動転しているわけでもなく、その証拠に力いっぱい振りほどこうとして、怒りのこもった声で叫んだ。
「離してよ。このろくでなし!……」
 横柄な態度でシルーを睨んだ……だが、ひと目でだれだか分ると、恥じ入って、阿呆のようになった……。
「父さん!父さん!……」
「この雌犬め……鞭で打ちのめしてやる!……」
「離してよ、父さん!……」
「その前に、思いっきり殴ってやる……おれの顔によくもドロをぬったな……」
 そのとき、怒りくるったおれ達の隊長が女のもう片方の腕を引っ掴んだ。
「ああっ!あなた……許して!……もう二度と!……わたし……わたし……」(つづき)

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