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地震と自然のかかわり(2)=サンティアゴ在住 吉村維弘央

 こんな話を小生がほぼ30年ほどご厄介になっている歯医者で、国立チリ大学歯学部の教授でもあるパロミーノ先生に話した。先生は、地震と言う現象が、どう理解すればよいのか分からないような不可思議な影響を人間にも与えるのではないかと次のような話をしてくれた。
 パロミーノ先生の奥さんも息子さんも歯医者である。先生ご夫妻は一般の治療に従事する傍ら、歯を中心とする様々な調査研究を共同で行い、その結果等を学会誌に報告されているらしい。調査対象は主にチリ、ペルー、エクアドル、ボリビアを中心に居住するいわゆる先住民族の歯形、歯並び、歯の病気等々とのことだった。
 これらの調査研究の中で、たまたま遭遇して不思議な現象として着目、さらに詳しく調査をしたのが、地震と三つ口の子供(兎唇又は口唇裂)の出生比率ということだと説明してくれた。これは妊婦が受胎して、その妊娠日数が8~9週目にあたる時期に地震が起こると、どういうわけか三つ口で生まれて来る子供の確率が大きくなるということに気が付いたとのことだった。
 妊娠時に体内で育つ期間に、特別なことが起こらない時に三つ口で生まれてくる子供の割合は平均して650人に1人だが、妊娠日数が8~9週目に地震が起こると、三つ口で出生する子供の数字が高くなるという結果だったとのことだった。
 科学的に言うと、上唇の形成は鼻の上から伸びてくる筋肉と両頬より真中に伸びてくる筋肉が合わさって形成されると言うことで、三つ口とは左右どちらかの筋肉の伸びが遅れて結合時期にずれが生じることで起こる現象であり、この結合が起こるのが受胎日より8~9週間目にあたるとの説明だった。
 この不思議な結果を確認する為にモルモットを使い、モルモットにとって人間の唇形成時期に該当する13.5日目にモルモットに地震と同じ強度の揺れを与えると、生まれてくるモルモットの唇に三つ口の発生が多くなると言うことが実証されたとのことだった。
 この結果をさるイギリスの研究誌に掲載したところ、イギリスのとある教授より非常に興味を引く且つ貴重な調査であると思うので、このデータを使わせて欲しいという依頼があったそうだ。
 口蓋形成は英語でCleft Lip Palateと呼ぶとのことで、興味があればGoogle等で更に詳細を知ることも出来るとの説明だったが、小生はまだ検索していない。
 なぜ地震と三つ口が関係するかと言うことについてだが、やはり妊婦の精神状態が大きく影響するのではないか、つまり強いストレスを感じることで、アドレナリンが通常より多量に発生することなどが関係しているのではないかと考えられるとの先生のコメントだった。
 また、南米の原住民でも、山岳地帯に住む原住民と海岸地区あるいは平野に住む原住民とでは、歯について言えば一様では無く、山岳地域の原住民の方に問題が多いとも言っていた。この点の詳細については又聞きではあるが、別途機会があれば説明してみたいと思う。
 1985年3月3日に発生したM7・8を記録したSan Antonio地震は、震源地がここサンチアゴより至近距離にあったと言うことと、発生時間がまだ太陽が残っている19時46分と言うこともあり、面白い現象を見た。それは裏山のアンデス山脈が一面に薄い幕をかぶったような感じになったことで、これはとりも直さず地殻の動きに反応してアンデスの禿山でも特に脆い岩場等で岩やら土砂等が崩れ落ちてこのような現象を起こしたと言うことになろうかと思っている。
 同じような現象を1971年7月8日発生のIllapel(M7・8)近くの住民も目撃したと言う話を聞いたことがある。これらは、ちょっとロマンティックに言えば、岩が泣いたということになるらしい。
 地震に反応するのは生きた動物だけでなく、鉱物も同じように泣くとすると花弁を含む植物はどう感じているのだろうか? もし彼らと会話が出来れば聞きたいところだ。
 またまた1週間前の9月16日(2015年)、19時54分にマグニチュード(リヒター8・4)の地震がサンチャゴの北部Illapel(サンチアゴ東部285キロ)の町の西部の海底で発生した。今回の地震はサンチャゴでは横揺れがほぼ1分半ほど続いたが、縦揺れを感じなかったせいか、サンチアゴに限っては建物の受ける被害はかなり少なかったと報告されている。
 とは言え、地震の発生時間が夕方だったこともあり、地下鉄の緊急停車やら、走行中の自動車、バスの異常な揺れで怖さを感じた人たちが多かったということ、スーパー、商店の棚の商品が崩れ落ち買い物客が恐怖に包まれたり、買い物客にお構いなく店がシャッターを下したところもあったようで、中に閉じ込められた客達はえも言われぬ恐ろしさ感じたとか。たまたま、その時間に現在南米で一番高いとされているCostanera Centerビルの300メーターの所にある展望台で合計187名の観光客がサンチャゴの町を眺めていたが、高所でもあり、地震の揺れはひときわ大きく、皆んな真っ青になって60階の階段を我先に走り降りたと報じられている。この観光客の中にはブラジルから来た人達も沢山いて、「もうこりごり!!」と泣きながら反吐を吐いた方々もいたとの報道だった。
 震源地を中心として北部に向かい大きな津波も発生し、その被害については世界中のプレスで報道されている通りだし、チリの海で発生する大型地震のたびに付随して起こる津波が、今回も日本まで到達したことはご承知の通りだ。
 幸いにして今回日本の海岸に届いたのは最高80センチの津波だったとのことで、恐れられたほどの被害を蒙らなかったのが不幸中の幸いと言えようか。

首都サンティアゴ・デ・チレの景観

首都サンティアゴ・デ・チレの景観

(Foto By victor san martin (Flickr) [CC BY-SA 2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)], via Wikimedia Commons)

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