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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(26)

【第13話】

 10月半ばの週の水曜日は秋晴れ。昼間は、マンションの経営管理を委託している不動産会社から、「経営状況」について報告を受けた。久々の「仕事」だった。何もしなくても金が入ってくる結構な身分だが、もうあの世に行くまでに使い切れないほど貯まったので、これ以上稼いでどうしよう。
 その夜は、約束どおり、ジュリアーナに会いに行くため、新宿に出かけた。
 歌舞伎町では、最近ホストクラブが増え、黒服に身を包んだカラスのような若者が、道行く女たちに片っ端から声をかけて呼び込みをしている。こんな時間帯にかかわらず、そうした店に入っていくのは、なぜか年配の女性グループが多い。
「亭主と子供がいるようなあの女たちは、一体何を求めてホストクラブなんかに行くのかな?」なんてことを考えながら歩いていると、いつの間にか「エル・パライーソ」のあるビルにたどり着いた。
 地階にある店に降りようとすると、そばにいた茶髪にピアスのカラスが声をかけてきた。
「おっさん、ここは外人お断りだよ!」
 ホストかと思ったカラスは、どうやら「エル・パライーソ」の従業員らしい。
 確かに、入口の壁には、『暴力団関係者と外人お断り』と手書きした紙が張ってある。
「外人に対する不当な差別だ!」などと言っても仕方がない。
「店長に、マリアさんご指名の、外人みたいな顔をした日本人が来たと伝えてよ」
 カラスは、なまりのない日本語を話す「外人」を見て、不思議そうな顔をしながら店の中に入り、しばらくすると営業用の笑顔を浮かべながら戻って来た。
「大変失礼いたしました。どうぞお入りください。『マリアさんご指名のお客様ご来店で~す!』」
 そこは、厚いベージュのカーペットと天井を走る光線が、ケバケバシイ雰囲気を醸し出している店だった。意外と奥行きがあり、バーカウンターの向こうには、たくさんのボックスシートが並んでいる。南米から来たらしいラテン系の女や、ロシアあたりから来たらしい白人の女が、おしゃべりをしながら座っている。日系人らしい女もいる。時間が早いのか、それとも景気が悪いのか、客よりホステスの数のほうが多い。
 深々と礼をする店長の向こうに、笑顔の「マリア」が立っていた。隙のない化粧をして、胸元が開いた真紅のドレスを身に着けると、私が普段知っているジーンズ姿のジュリアーナとはまったく違う女だ。これだから女は怖い。
「いらっしゃいませ。ボア・ノイチ(今晩は)!」
「あ~驚いた。誰かと思ったよ。ええっと、できれば奥の、静かな席に座りたいな」
 今日は客として来たので、指名した「マリア」さんが、腕組みをして席まで案内してくれた。
 二人仲よくボックス席について、とりあえずビールを頼むと、ジュリアーナに知りたかったことを聞いてみた。
「ここは、なんで外人お断りになったのかな?」
「この店は、クラブとか言ってるけど、キャバクラと同じで、時間制のセット料金なの。たとえば、今頼んだビールや安物のウイスキーなんかは、セットに入っているから、いくら飲んでもいいの。時間を延長してもいいけど、指名料を払わないと、同じ女の子がつくとは限らないわ」
「で、外人のどこがだめなの?」

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