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避けよ、政治の危険な火遊び=パラグァイ大統領再選問題=アスンシオン在住 坂本邦雄

パラグアイ共和国のオラシオ・カルテス第39代大統領(Casa Rosada, via Wikimedia Commons)

パラグアイ共和国のオラシオ・カルテス第39代大統領(Casa Rosada, via Wikimedia Commons)

 2017年はカルテス大統領の在権4年目になり、現行憲法の掟(おきて)で任期5年、再選は不可能。だが、来年8月15日の新旧元首の交代へ向けて、この規定を変えてでも、各政党政派は次期後継大統領に現職と大統領職経験者も含めて、全国総選挙にそれぞれの候補者の出馬を図るべく、昨年後半からその可能性を盛んに世論に訴えて来た。

 旧ストロエスネル憲法は、1967年に大統領の2期連続(10カ年)選出制をもって公布され、かつ1977年には改めて大統領の再選を更に一期(5カ年)延ばした。
 それに代わって現行憲法はアンドレス・ロドリゲス将軍の革命政権下で、1992年6月に改正・発布された、いわゆる「民主憲法」である。
 この新憲法草案を約6カ月間にわたり、鋭意討論・審議に当ったのは、全国から選ばれた専任198名及び同数の補欠員(計396名)により構成された各界有識者から成る「憲法改正国民議会」だった。ストロエスネル政権を1989年2月のクーデターで打倒したロドリゲス大統領が召集した。
 その議長を務めたのが、かつてス政権の2代目内務大臣で、切れ者過ぎたのが禍(わざわい)し、ストロエスネル大統領に睨まれて失脚したエドゥガル・L・インスフラン氏の弟ファクンド・インスフラン博士であった。
 この現行憲法の特徴はその第229条で、「・・・共和国大統領及び副大統領は選挙当選後の8月15日に就任し、任期は5カ年とし、いかなる場合も(一度大統領を務めた者は)再選は出来ないものとする云々・・・」と断定的であることだ。

独裁政治の再来ゆるさぬ「民主憲法」

 思うに、同憲法改正の代議員の諸先生方は、良く考えたもので、およそ35年間も続いた長期圧政に苦しんだ国民感情を斟酌(しんしゃく)し、二度とパラグァイに恐怖の独裁政治の再来を許さぬように、大統領再選の道を堅く閉ざしたのである。
 ところで、面白いのは現行の「民主憲法」の立案を命じたロドリゲス大統領は、ストロエスネルの残余任期を務め上げて、革命後初の1993年の全国総選挙で次期大統領に正規に立候補しようとしたが、ドッコイ自分で発布した新憲法の再選禁止制度の思わぬ厚い壁に突き当たり、臍(ほぞ)を噛(か)んだと云う話である。
 それで、やむなく腹心の閣僚フアン・カルロス・ワスモシ統合大臣を代わりに立候補させたのだと云われる。(後にロドリゲスは自分で推薦したワスモシに失望し、この選択は「我が一生の不覚だった」と洩らしたと云う)。
 ただし、その後の後任大統領の面々も、憲法が左様に規定はしていても、問題は法解釈次第でその道は開けるのだと、内心は再選に出馬したいのは山々なのである。
 それは、為政者の旨い味を一度味わうと政権の座に座り続けたくなるのは人情であり、また5年限りの任期では自己の施政方針を充分に果すには時間が短か過ぎると云う理屈も頷うなずけない訳でもない。
 と言うような事で、憲法第289条及び第290条でそれぞれ定められている改正(改憲)、または修正(部分的補正)の方法をもって、再選の機会を得ようとする野心を大統領経験者は誰しもが密かに抱くのだ。

一度味わうと居続けたくなる政権の座

 事実その内でニカノル・ドゥアルテ・フルトスとフェルナンド・ルーゴ元両大統領は、来年の大統領総選挙にそれぞれ出馬の意思を既に表明している
 ほかに、就任以来その気持ちは全くないと言い続けて来たオラシオ・カルテス現大統領も最近になって、「多くの国民が欲するなら、改めて再選の道も考えない訳ではない」と、回りくどい意思表示をしている。
 これは、かつてストロエスネル元大統領が、「国民が余の再選を望んでいるのに応じて毎度の大統領選挙に敢えて出馬しているのだ」と述べたセリフに良く似ている。
 つまり、カルテス大統領に好都合だったのは、ルーゴおよびドァアルテ・フルトス両元大統領が憲法修正をもって、それぞれ2018年の全国大統領総選挙に打って出たい意思を明らかにした事を口実にしてカルテスはその尻馬に上手く乗ったと云える。
 ちなみに、憲法第290条は「・・・上下両院のいずれかの議員1/4相当数、又は共和国大統領、あるいは有権者3万名の連署要請、及び提唱により修正が出来るものとする・・・云々」と定めている。
 カルテスは政権与党コロラドの主流派党員を動かし、かつルーゴ等の野党勢力と提携して大統領再選に関わる憲法修正案を国会に図るべく策動を試みているのだ。
 しかるに、一方国民は大統領の再選制度は違憲だとして不賛成の者が多く、その為に憲法の改正、または修正を行なうのに難色を示しているのも事実だ。
 そのように来年の総選挙を控えて、激動の予感をはらむ政治決戦の年が明けたが、この正月中はまだしも、2月に入ってからは更に活発化が予想され、その成り行きはいかに展開するか、果たしてカルテス現大統領の再選はなるか等の、予断を許さない未知数の謎が多い。

世論調査で一番人気はルーゴ元大統領

 そこで、ペルーのCIES・経済社会問題研究コンソーシアムが昨年後半に行った世論調査を見ると、FG(Frente Guasu)大革新前線党の上院議員で元大統領のフェルナンド・ルーゴ氏が2018年の大統領総選挙戦には一番の人気があり、31・9%の得点を得ている。
 そして、以外に多い24・7%の浮動票が続き、3番目は現アスンシォン市長のマリオ・フェレイロ氏の10・5%で、カルテス大統領の7・5%が4番目に位置している。
 以下は5番目のマリオ・アブド・ベニテス上院議員の5・7%、6番目ニカノル・ドォアルテ・フルトス元大統領の4・5%と、最後に7番目のエフライン・アレグレ青党総裁の3・7%と続く。
 これ以外に赤党、青党など与野党の複数有力国会議員や政府高官の名前も挙がっているが、その人気率は特に取るに足りない。
 しかし、驚きは暮れも押し詰まった頃に行政府は国の統治性も危ぶませ兼ねない幾つかの不手際を犯したのだった。
 その一つが、大騒ぎの宣伝下に憲法の修正をもって(違憲的な)大統領再選の術を図るべく画策した事だ。
 それに、国庫の税収増進の目的で個人所得税法の規制変更を年末になって緊急に執行したのである。
 なお、行政府は国会が議決した2017年度の新国家総予算案を拒否権の発動で全面的にこれを否認し、代わりに2016年度の旧会計年度予算を適用する事にした。過去24年来において初めての行政処置である。
 そして、これ等の騒ぎは「EPP・パラグァイ人民軍」のテロ行為対策の失敗、治安の悪化、公衆衛生、公教育等の政経各問題から市民の注意を外らせる効果があるかも知れないが、仮にも「政治のお偉方の危険な火遊び」になっては貰いたくないものだ。

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