▼ブラジル人が外国に住んだときの特徴
【永井】ただし、あんまり外国の人をいっぱい入れたくないという考えの人たちも、日本の日本人にはかなりいる。ブラジルの人がすごく増えて2006年くらいに犯罪がすごく多くなった悪い思い出が、まだ残っているような人もいます。
あとは逆に、来てほしいと思っている人の中にも、「定住者」みたいに自由に転職されちゃうと、来てほしい職場に定着してくれない。だから、職場が変われない技能実習生みたいに安く安定して働いてもらえる形ならいいとか思う人たちもいる。
そういう思惑がごっちゃに混じっちゃって、今の制度になっちゃったんじゃないかなって気がしますけど。
【深沢】よく、日本は人口が減っているから外国人を入れなくてはいけないという議論をする人がいますよね。
【永井】はい。
【深沢】そうであれば、ちゃんと日本人と同じような待遇で受け入れなくてはいけないと思うんですよね。「外国人は下層労働のみ」みたいな受け入れ方をしていると、後々恨まれて、もしも在日ブラジル人が移住100周年とかやる時代になった時、「移住当時は日本政府から差別された」とか言いそうですよね。
それに、日本の新聞で「日系人1万人が毎年失踪」とか大々的に書かれる状況になったら最悪ですよね。まあそんなにひどかったら、それ以前に行かないでしょうけど。
やっぱりその、日本人優位があからさまな感じがどこかある。グローバル社会の中では胸をはれないものがあるんじゃないかと思いますね。
【永井】それだけじゃなくて社会があんまり階層的に分かれちゃうと犯罪とかも多くなりますし、いろんな問題が出てくるんじゃないかな。
【深沢】そこで、日系人受け入れをひとつにテストケースにしたらどうかと思うんです。上手に日系人を受け入れて在日2代目になったら、メンタリティは「ほぼ日本人」になるんじゃないかという気がします。
【島野】帰化した人じゃなくて、たぶん次の世代から、たぶん。
【深沢】そうそう。6月に映画監督の山崎千津薫さんの記者会見があって、となりにその州立移民史料館のジレトーラが座って一緒に話してたんです。このジレトーラが面白いこと言ってたんです。「ブラジルの日系人は100年、110年経っても、まだ日本文化の伝統とか一生懸命残そうとしてるけど、ブラジル人はアメリカやヨーロッパに行ったら、その子供はもうその国の人間になっている。何にも抵抗無く溶け込むんだ」と。むしろ「それがブラジル人の特徴だ」みたいなことを言っていた。
「なるほどー」と納得しましたね。新しい移民大国ゆえに、人種的に多様で、国民性が固まっていない。だからほかの国に移住した場合、適応しやすい、と。
【永井】でも日系人が伝統を残すのは何なんでなんしょうね。アジアの人の特徴なんですかね。
【深沢】ブラジル社会のベースとなる欧州文化と「違うから」というのと、僕が個人的に思うんですけど「差別されるほど文化やコミュニティは残る」っていうことじゃないかと。差別されるからお互いの反作用で文化が根ずく、残っていく。たぶん日本に行った日系人は、日本育ちの次世代になったら、酷い差別を日本人から受けなければ「ほぼ日本人」になってると思う。
日系人は血縁ですから、日本人が一番受け入れやすい人ではないかと思います。まったく血縁のない外国人よりも、日本人にとっては受け入れやすい。だから、まずはそういう人たちを中心に受け入れていって、うまく行けばほかの外国人受け入れにも拡大していく。
そして、日本で育った世代の一部がブラジルに帰ってきて、こっちのコロニアを活性化させるという循環が起きることを期待したいですね。
そうすれば、日伯関係のベースとなる日系社会を、両側で常に活性化し続けるような形になりますよね。日伯の間を行き来する人材を中心とする「緩衝地帯」のような日系社会を作る。そこから両国をつなぐような人材が生まれ続けるのが理想ですよね。
▼両側に緩衝地帯としての日系社会
【永井】それが一番いい。すでに多くの日系人の家族は、ブラジルにも日本にも親戚がいる状況がある。それを踏まえると、行き来する人たちが前向きに居場所を持てる状況をつくってあげないと。
【深沢】ただ単に、デカセギのせいで家族がバラバラになってしまったとかいうマイナスの面だけに、いつまでも焦点が当たるのは、どんなもんかと。その辺ある程度、長期的な視点、二世代、三世代先を見通すような見方が必要だと思いますね。
少なくとも、在日一世の子供が日本で生まれて大きくなるまで、だから30年とかのスパンで考えていかないと。そうなるともう「移住政策」ですよね。4、5年間とかで結果出すのは不可能です。
【永井】ただ、ブラジルを結構応援している人だとか、あるいはブラジルの人でも、四世以降を無尽蔵に日本に行かせるようにしないほうがいいって意見の人が結構います。「日本語が出来ないと向こうで苦労するから行けないようにしといたほう良い」とか。
【深沢】日本語できたほうが良いですよね。
【永井】日本語ができたほうがいいんですけど、それを制限するかどうかですよね。「自分は日本語出来ないけど、お父さんとお母さんが日本に住んでいるから自分も日本にいきたい」って人もいる。そこらへんの意見の統一が出来てないっていうのもありますよね。
(つづく)