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海外日系文芸祭=短歌の部結果発表=ブラジルから24人が入賞

ニッケイ新聞 2011年9月1日付け

 「第8回海外日系文芸祭」の選考委員会が8月4日に行なわれ、本紙に結果が寄せられた。一般、学生の部を合わせ、14カ国から短歌1175歌、俳句680句の応募があった。授賞式は「第52回海外日系人大会」の3日目、10月28日午前9時45分から憲政記念館(東京都千代田区永田町1-1-1)で行われる。今回は短歌の結果のみを、海外の受賞者を中心に掲載した。また、他国の入賞者の名前の読み方は確認できなかったため、ブラジルの入賞者だけ読みを記載した。(敬称略、ブ…ブラジル、ア…アメリカ、パ…パラグアイ)。

【短歌・俳句部門大賞】
 ◎衆議院議長賞
 震災の悲惨に血圧上がりしとブラジル人医師に告げがたきポ語(寺尾芳子、ブ、スザノ)
【短歌部門 一般の部】
 ◎海外日系新聞放送協会会長賞
 満開の桜にあか明き外人墓地碑石はなべて故国にむか対ふ(宇津井寛、神奈川県鎌倉市)
 ◎海外日系人協会理事長賞
 移民船のデッキチェアに寝るわれを水平線がまあるく抱きぬ(尾山峯雄、ブ、サンパウロ市)
 ◎日本歌人クラブ賞
 なゐ地震の跡見詰むる人の背に肩に触れては消ゆる春の沫雪(西林節子、カナダ、リッチモンド)
 ◎角川「短歌」編集部賞
 震災の跡に立たずむひと女影に空襲の日の母が顕ち来る(川久保タミ、静岡県清水町)
 ◎短歌研究社賞
 プレゼントの金のリボンを解く夫の四角い爪の指先思う(三浦節子、宮城県仙台市)
 ◎中部日本歌人会賞
 元号の平成むなし大地震のがれきの山に月白く照る(渡辺純子、愛知県一宮市)  
 ◎文芸祭賞
 切れ端を綴じて作りしスカートの小女は颯爽と春の街ゆく(酒井文子、ブ、サンパウロ市)  
 米軍が空より見つけし「ARIGATO」被災の浜に組まれし破片(岩見純子、ア、ロサンゼルス)
 水牛は背に干からびた泥のせて弁髪の児は寄り添いねむる(チャレンツィ・ルミコ、タイ、バンコク)
 赤き夕日よ明日は祖国の被災地にぬく暖き光をなげて下さい(鳥塚昌子、カナダ、オンタリオ)
【短歌部門 学生の部】
 ◎海外日系新聞放送協会会長賞
 かんらん車いつもゆっくり回ってるまるでわたしの生かつみたいに(遠山愛歩、愛知県名古屋市立大杉小学校二年)
 ◎海外日系人協会理事長賞
 あじさいの花をみつめてふと思う私の心なに色だろう(榊原桜妃、愛知県東海市立加木屋中学校一年)
 ◎文芸祭賞
 卒業式シカゴの庭はまだ寒く友の笑顔はまだ温かく(伊藤奎大、ア、シカゴ双葉会日本語学校中学部一年)
 乾いても涙にぬくもりあることを初めて知った友と別れて (堀江奈央、ア、コロンバス日本語補習校中学部二年)
 レオくんは家でねているゆめを見る先生のゆめそして笑うよ(山中真奈美、パ、ラパス日本語学校小学部六年)
 この時間とんで行きたい大空にこのくうかんをどうにかしたい(藏津優花、カナダ、バンクーバー補習授業校中学部二年)
【入選】
 疎開より戻りし母子六人を迎えし祖父の足は一本(宮城重雄、アルゼンチン)
 風立ちて枯れ葉一片舞い落ちる老いの歩調に戯れるごと(下小園昭仁、ブ)
 被災地の生活難をしみじみと重ねて偲ぶ吾が移住初期(原君子、ブ)
 散り果てて枝だけ残るパイネイラ透ける彼方に流れゆく雲 (竹山三郎、ブ)
 半世紀の歴史詰め来し竹ごうり未来に続けと虫干しをする (野口民恵、ブ)
 放射能にかかわりしゆえ妻は逃げ原発技師の甥を哀しむ(西田はるの、ブ)
 手伝いし引越荷物の少なきをゆれてかつぎぬ漬物樽を(神林義明、ブ)
 朝焼けの雲を羽織ってオベリスク池の水面に姿を写す(岡田俊子、ブ)
 轟音と飛沫くぐりて子育ての燕に春の虹のイグアスー(富岡絹子、ブ)
 備前焼湯飲はふ古りて色深む秋の夜すがを一人たのしむ(川上淳子、ブ)
 手さぐりで先の見えない道を行く恋の記憶に明り灯して(神尾朱実、メキシコ)
 こんなにも桜のような君のこと思っていても届かないまま (ルイス井上健、日本メキシコ学院高等部三年)
【佳作】
 被災者と心一つにしています命をどうぞ日々穏やかに(饒平名治子、アルゼンチン)
 予後の身と思えど悲し気にいらぬ菜を箸にてそうと押す夫(井上伊津子、ブ)
 わが祖国の大災害に地震なき国に住み一そう心が痛む(山田節子、ブ)
 手の中の砂はつめたし心地よし昨夜の雨のしめり残して(島田喜久枝、ブ)
 あかつきの空を仰ぎて吾れ祈る祖国のはらから強く立てと (塩沢次雄、ブ)
 異人嫁ポルトガル語で短冊に夢をたくして笹の葉に結ぶ(小林嘉子、ブ)
 トラックを横ずけて麦の収穫機起伏ゆるやか地平線まで(廣瀬美知子、ブ)
 大空巾地に刺さるがに疾き影鷹が鶏つかみ羽撃く(谷口範之、ブ)
 億年の恐竜化石の前に立ち夫とのよそとせ四十年思いていたり(金谷はるみ、ブ)
 若き日に学んでよかった日本語を故郷の便りの読める嬉しさ(内谷美保、ブ)
 移り来て伯語覚えず四十年暮らし行ける大らかな国(山岡宏子、ブ)
 移住地の花嫁第一号なりし我夫手作りの髪かざりして(佐藤けい子、ブ)
 ブラジルの大地を信じ育てきしマンゴー赫々地平を染める (間嶋正典、ブ)
 八十路坂よくぞここまで来れたもの後ふり返る越えた七坂 (小椋千尋、パ)
 筆舌につくし難たしやこのざま情態の災害ニュースにと外の國でな涙く(宮里玉枝、パ)
 枯葉焼く煙の匂い懐かしく思い出させる今は亡き父(山田博行、パ)

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