健康広場
2005年9月21日(水)
霧雨の土地(terra da garoa)、サンパウロ──。なんてロマンチックな名前なんだろう。音の響きから、陰翳に富んだ奥ゆかしい町を想像する人もいるかもしれない。
「霧の深さに涙を捨てる 俺は流れのエトランゼ」。石原裕次郎の「夜霧のサンパウロ」には、確かそんな歌詞もある。
近年めっきりと、霧雨の日が少なくなったという。
地球温暖化、大気汚染、海水レベルの上昇……。気候の変動が大きな原因だ。五十年余りの間に都市化が急速に進行。アスファルト舗装と緑の減少で空気が乾燥し、それが夏の豪雨による洪水にもつながるらしい。
光化学スモッグのためなのか、地方からサンパウロに入ってくる時によく霞がかってみえる。
体力にはもともと自信がないが、最近風邪を引くと結構長引く。風邪なら普通一週間ほどで完治するのに、二、三週間かかることもある。空咳ばかりでたんが出ないのが頭痛の種だ。回復が遅れるのは、市内の環境も一因しているのではないか?
薬局で咳止めの民間薬をみていたら、ほぼ必ず入っている薬草があるのに気付いた。グアコ(guaco)だ。ブラジル南部・南東部原産のキク科の植物。鮮やかな緑の葉と黄白の花が印象的だ。繁殖力が強く、大した手入れもいらない。
インディオは解毒剤として利用。蛇や毒を持つ動物にかまれた時に、葉の浸出液を湿布の形で傷口に当てていた。薬用に実用化されたのは古く、一八七〇年に医薬品目的で茎と葉が採取され始めた。
その後喘息や咳、風邪の症状に有効であることが科学的に証明され、「聖なる薬」(santo remedio)としての地位を固めた。さらに、腸の炎症や傷の治療にも使途が広がった。
茶さじ一杯(五グラム)の乾燥葉を、五百ミリリットルの水で煎じるのが一般的な服用方法だ。民間薬は主にシロップ形式になっており、プロポリスや蜂蜜と配合することで相乗効果も狙っている。
薬局関係者によれば、「咳がひどくなる前に飲むと良く効くと、消費者の声を聞きます」と売れ筋の商品のようだ。公害と切り離せないサンパウロでは、欠かせないものなのかもしれない。
「行列や村やファベーラで虐げられた人々、美しいものを建てたり壊したりする莫大なカネ、星を遮る醜い煙」。カエターノ・ヴェローゾ(63)は「サンパ」(sampa、一九七八年)で、南米最大都市の現実を皮肉たっぷりに歌った。
リタ・リーを始めサンパウロ出身のアーチストなどと出会い、町に対する彼のイメージは百八十度変化。「新しいバイアーノたちが霧雨の中を歩き、そしてよく楽しんでいる」と詞を結んでいる。バイーア出身者である自身の投影だったのだろう。
サンパウロ四百五十年の二〇〇四年一月二十五日。曲の舞台でもあるイピランガ街とサンジョアン通りの角で記念のショーが催され、甘く切ないメロディーが流れた。カエターノは聴衆に向かって言った。「サンパウロは、すべてを与えてくれた」。