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「ノートンワイン」

グルメクラブ

5月28日(金)

  マイケル・ムーア監督のブッシュ批判ドキュメンタリー「華氏九一一」がパルムドールを受賞して終わったカンヌ国際映画祭。
 同じくコンペティション部門に出品されていたヴァルテル・サレス監督「ディアリーオ・デ・モトシクレッタ」は結局無冠に終わった。だが、作品そのものへの評価は上々。今年十月には日本で公開の運びで、また、来年のオスカーへの期待が残っている。
 映画祭の記者会見も話題となった。監督に同席したのは、かつてゲバラと南米大陸を旅したアルベルト。現在、八十二歳というが年齢を感じさせない若々しさで各国プレスを魅了した。
 もしゲバラが生きていたら、と世界の人々はしみじみ思った。やがて六月十四日には七十数回目の誕生日を迎える。
 アルベルトは、映画のPRサイトでも「青年」ぶりを発揮。五二年の旅行でゲバラと相乗りした、ノートン・モーターサイクルにまたがった姿を披露している。ノートンは一九〇一年、英国で設立された会社だ。二人がその中古車(一九三九年型)でラテンアメリカを巡った年の世界GP500ccメーカーチャンピオンに輝いた。
 そもそもイギリスとアルゼンチンの関係は深い。現代史のフォークランド紛争に始まったことではなく、十九世紀からの付き合いだ。一八八三年には、イギリスの海外投資の半分がアルゼンチンに集中。インフラ整備に多大な貢献があったのだ。
 ノートンといえば、しかしアルゼンチンではバイク以上にワインの銘柄として知られる。創始者は、一八六五年に移住したエドムンド・ジャイムス・パーマー・ノートン。当初は列車敷設のエンジニアとして働き、メンドーサとチリを繋ぐ路線開設に成功。その後、列車事業から身を引き、ワイナリー経営を始めた人物だ。
 メンドーサ河流域の高地にブドウ畑を所有。それぞれの土地の性格にあったブドウ品種(マルベック、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロ、サンジョヴェーゼ、バルベラ、ソヴィニョン・ブラン)を栽培する。
 マルベックはフランスが原産だが、「アルゼンチンで理想の地を見つけた」といわれる品種。その二〇〇二年物は米国の専門誌ワインスペクテイターをして、「モダンな果実味に焦点が合っている。ピュアでおいしい」。サンジョベーゼとバルベラの原産はイタリア。ソーヴィニョン・ブランの出来は同業者をも驚かせるそうだ。国内流通よりも、輸出に主眼を置き、手ごろな値段で質の高い商品を提供しているワイナリーとして、日本でもブラジルでも定評がある。
 くだんの映画での二人は旅先でよくワインを飲んでいた。実際のゲバラはアルゼンチン人らしく、テーブルワインは、ソーダ水割りを好んだ。ただ、映画ではアルベルトの方がずっと酒の強いの印象を受ける。
 読書家、医学専攻、喘息持ち。六〇年代、ジョン・レノンは「あの頃、一番かっこよかったのがゲバラだった」といったが、三十九歳、ボリヴィアでのゲリラ闘争中、捕らえられ処刑された革命家の素顔はあまりにも青白く、「華奢」である。いや、それだからこそだろう、多くの困難にじっと耐え「自己」を克服しながら戦っていたのかもしれない、と思わせる凄みがあるのだ。

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