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「話題 SOS SOJABRASIL」

グルメクラブ

11月5日(金)

 先日、モッカ区を訪れたおり、目抜き通りのモッカ街まで足を延ばしてみた。活気あふれる雑踏の商店街。古本屋、下着専門店、駄菓子屋、電気屋と、都心のショッピングやスーパーまでいかなくともここでたいての生活用品がそろう。顧客の多くは地元住民のようで、学校や職場の休憩時間あるいは、その帰り路に買い物に立ち寄っているといった感じだ。
 ある食堂で、店主の子供が体操着姿のまま、常連客に混じって食事をとっている光景を見かけた。いまどき珍しい地域密着型。下町風情の商店街から昔日が香り、心和んだ。かつてイタリア人街だったころの記憶が、パン屋のショーウインドーなんかにそこはかとなく残っているあたりも、レトロな気分を味わえた。
 サンパウロ市は今年、誕生四百五十年。同区は四百四十八年になる。その地名の語源については諸説あるが、グアラニー語で、「家(OCA)を建てる(MOO)」とする説が有力だ。白人入植者のパイオニアたちが西欧様式の家を建設するのを、興味深く眺めていたインディオたちがそう呼んだことにちなむという。こうした街の歴史や、現在の様子を伝える立派なウェブサイトwww.portaldamooca.com.brがある。その制作スタッフの一人という女性に会った。
 同街の外れで、大豆食専門のレストランを経営している。新しい息吹を街に送り込んでいる。ただ、開業して三カ月と間もないせいか、訪ねた平日の昼時、客入りは芳しくないよう映った。付近の住居に高層のマンションは少なく、築四、五十年以上とみられる平屋が大半だ。そうした地元住民も、同区に数ある街工場の労働者や小さな商店で働く人々も、食べ物に関してどちらかといえば保守的でないか。ブラジルでは先進的な大豆食、その普及「基地」としてモッカはふさわしいかどうか。
 「この街に最近になって大手スーパーが進出してきました。街の発展にはプラスでしょう。その勢いに乗りたい。チェーン展開も考え中です」
 生まれも育ちもモッカというイタリア系の夫が、メニューを説明してくれた。
 「スパゲッティ、ラザーニャなど基本はイタリア料理ですが、肉類は使用せず代わりに大豆を主な素材にしている点に特徴があります。イタリアン・ベジタリアン・フードです」
 イタリアンフードの明朗さと、ベジタリアン(語源はラテン語Vegetus『活気と生命力』)の組み合わせが妙だ。イタリア人移住者が持ち込んだ味を踏まえた、大豆尽くしの新感覚料理。それが将来のモッカの、ユニークな「町おこし」に繋がれば、いいじゃないかと考え直した。だが、どうしても気になることがあった。それはブラジル産の大豆を素材にした料理が、本当に「安全」なのかということだった。
 ルーラ大統領が先月十四日、遺伝子組み換え(GM)大豆の栽培と販売を暫定許可する大統領命令に署名。環境相や、国内第二の大豆生産州であるパラナ州政府は難色姿勢を示してきたが、大統領は栽培に関しては〇五年十二月三十一日まで、販売は〇六年一月三十一日までの期限付きで認めることを決断した。これによって今シーズン、ブラジル大豆の二割がGM大豆になると予想されている。ブラジルは、日本の農業開発協力の結果、現在世界第二位の大豆生産国で、日本にとって第二の大豆輸入国。今後の影響拡大を懸念する日本人はしかめっ面したいところだろう。
 もっとも、ブラジルは暫定措置に訴える以外の選択肢はあまりなかった。言い分は次のようなものだ。まず、輸出競争国アルゼンチンが生産性の高いGM大豆の栽培面積を増やし、成果を上げていることによる危機感。厳しい国際競争にさらされている農家は、生き残りをかけてGM大豆を選んでいる。さらに、アルゼンチンから密輸した種子による「非合法」GM大豆栽培が続けられており、この流れはもう止められない。こうして食の安全は、なしくずし的に崩壊している。
 利益優先のグローバル経済社会で、泣くのはいつも末端の消費者。安全性確認があいまいで、未知の有害物資を生み出す可能性さえ指摘されるのが遺伝子組み換え食品がそ知らぬ顔で流通しているなんて。大豆食が健康食でも、肝心の素材の安全性に問題があれば、もともこもない。
 店では特製ベジタリアン・フェイジョアーダと、おなじみ大豆ハンバーグをいただいた。フェイジョアーダには当然豚の耳や尻尾などは見当たらず、リコッタチーズやニンジン、赤カブなんかが入っていた。色も味も「本物」にかなり近い。ご飯は玄米だった。値段は良心的だ。調理に手間暇かけ、素材に凝った代物で十レアル以下。出来るだけ廉価で料理を提供し、まずはご近所さんから、健康食に親しんでもらいたい。経営者夫婦のそんな正直な「思い」が反映されていると思った。
 地域密着型の商店街では、経営者の顔と思いがよく見える。売り手と買い手、生産者と消費者の間に確かな信頼の絆があるのだ。もしこの世の中が「小さな親密型社会」単位で隈なく形成されていたら。危険な遺伝子組み替え食品など、無責任に出回らずにすんでいるに違いない。

SojaBrasil Alimentos
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www.sojabrasil.com.br

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