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連載小説

どこから来たの=大門千夏=(25)

 それからというもの、度々広島県人会に顔を出しておしゃべりした。いかにも善良そうな笑顔の良いおじさんでコロニアの昔話が得意で、なんでもご存じだった。  あるとき、五コント札を小さくしたいけど、どうしたらよいか聞いた。 「すぐ近くのあの角のバールに行ったら、カイシャ(出納係)と書いたところがある。そこでトロッカ!(両替して)と言っ ...

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どこから来たの=大門千夏=(24)

 胸がドキドキ。  遠巻きにそっと鍋から離れると、あとは、後ろも見ないで洗面所に駆け込んだ。気持ち悪く吐き気までする。あのしわしわの手がおっかけてくるようで、しっかりと鍵をかけて鍋を触った手をごしごし洗った。  ブラジルの人はこんな恐ろしいものを平気で食べるのかしら。  あの日あんなに奇声を上げたのに一〇年後には私が鶏の足を煮て ...

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どこから来たの=大門千夏=(23)

「あんた達はみんなうちのお客さんよ。ちゃんと払ったんだもの、すごい事だね」と言うと、頬を緩め穏やかな目をして「チアありがとう」とお礼まで言ってくれた。  どこにでもいるごく普通の男の子達なのだ。思わず昔、祖母が「良い子だねえ」と言ってしてくれたように頭を撫でてあげたい衝動にかられた。  何かの理由で家を飛び出してきた子供達。きっ ...

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どこから来たの=大門千夏=(22)

「テニスがいるんだ」顎をしゃくっていきなり言った。自分たちの要求を聞くのは当たり前と言った横柄な態度。 「ここはバザーだから何時でも売りますよ。一足二レアル」鉄格子の内側から大声で怒鳴った。よく見ると意外と小奇麗なTシャツを着て、半ズボンにゴムぞうり姿。しかし顔や手足は汚れていて何日も洗っていないようだ。 「金はない」威張って鉄 ...

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どこから来たの=大門千夏=(20)

 それを見た友人は「ブラジルでは食べ物を持って帰ることは恥です。貴女のしたことは恥ずかしい事ですよ」ときっぱりと言いはなち、その上「ブラジルでは食べ物を持って帰るなんて習慣はありません。あなたのしたことは大恥です」と再度言われて恐れ入ってしまった。  食べ物を持って帰ることがそんなに恥ずかしい事なのだろうか。目の前に残したものは ...

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どこから来たの=大門千夏=(20)

 障子に朝の柔らかい黄色い光が、冬は雪の白い光、雨の日は灰色のどんよりした光が当たっている。それをぼんやり見ている内に段々目が覚めてくる。――と、急に「朝がきた!」と嬉しくなる。すぐに腹ばいになって枕の向こうの皿の上を見る。手を布団からそっと出して皿の上のお菓子をつかむと、それを布団の中でごそごそと食べる。  食べ終わると機嫌よ ...

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どこから来たの=大門千夏=(19)

「アア、中々よく似合うわ」自分の作った「世界に一つの首飾り」に満足する。  夜になった。シャワーを浴びようとして、首飾りが外れない、先生に留めてもらったので外し方が判らない。安物だから簡単なはずなのに、どうしても外れない。近年指先の神経がバカになって、指紋が薄くなって、細かい仕事がまるっきりできなくなった。昔なら簡単に外せたのに ...

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どこから来たの=大門千夏=(18)

 理由は、これから私が八〇歳になったら、することが無くなるだろうから、日がな一日椅子に座って、首飾りを作ろうという目的と言うか希望を持っているからだ。  その日のためにあちこちでビーズを集めてきた。  インドネシア、ミャンマーの発掘品のビーズ、チベットなど少数民族のビーズ、ベネチアのビーズ、ウランをガラスに混ぜて発色させたビーズ ...

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どこから来たの=大門千夏=(18)

 理由は、これから私が八〇歳になったら、することが無くなるだろうから、日がな一日椅子に座って、首飾りを作ろうという目的と言うか希望を持っているからだ。  その日のためにあちこちでビーズを集めてきた。  インドネシア、ミャンマーの発掘品のビーズ、チベットなど少数民族のビーズ、ベネチアのビーズ、ウランをガラスに混ぜて発色させたビーズ ...

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どこから来たの=大門千夏=(17)

 それから何だかステービスの様子がおかしかった。私のアンチーク・ジュエリーの直しも暇がかかることが多くなった。度々いないことがあった。  ある日、息子が「父は肺がんにかかった」と教えてくれた。 「絶対あの植木があなたにエネルギーをあげていたのに。私が持って帰ったからあなたが病気になった。あの植木は返すから…あの植木は返すから…ご ...

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