「信じられない!」ママは彼がカウンターの席につくと、そんな事を口走っていた――。 仕事が終わったのは七時に近い時間だった。彼はまだリベルダーデ界隈の飲み屋に行くのには、時間的的に早すぎると思ったが、今日は飲みに行くというより、ママからの用件を確かめに行くのが目的だと思い直して、早めにその店に向かっていた。 店の中に入ると、すぐ ...
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駐在員をテーマーとするショート・ショート連作=「ブラジル諸人来たり」ブログより許可をえて抜粋=(4)=オードリー、それともカヨコ
「アウドリー」という名前を知ったのは、佐竹健一がブラジル支社に就任して本年ほどし、事務所から工場勤務になったあとの事だった。 どこかオードリー・ヘップバーンを思わせる名前だったので興味を覚えたのだ。工場長の日系のトミオさんによれば、彼女のフルネームは、アウドリー・ジバ・カヨコ・アキムラ・ナカオという長ったらしい名前で、現実の彼 ...
続きを読む »駐在員をテーマーとするショート・ショート連作=「ブラジル諸人来たりて」ブログより許可をえて抜粋=(3)=今どきのマクンバ(アフリカ伝来黒魔術)
真夜中、香織は一人で「マクンバ、マクンバや!」と大阪の自宅で叫び、グッド・アイデアに膝を叩いた。と言うのは、どうしても夫の片岡清をやっつけてやりたいと思っていたからなのだった。 ☆ そんな頃、夫の片岡は朝、会社に出勤しようとサンパウロ市のマンションのドアを開けていた。ふと、そのドアの横に何気なく置かれていた、蝋燭の束 ...
続きを読む »駐在員をテーマーとするショート・ショート連作=「ブラジル諸人来たり」ブログより許可をえて抜粋=(2)=UFO
「工場長、この辺はよくUFOが現れるそうですよ。というのは、真っ赤な嘘ですが」と、私より半年ほど早く、ブラジル支社に就任していた後輩の矢柄が言った。 「馬鹿野郎」と、私は親愛の情を込めて、後輩の頭を小突いてやった。しかし、そう言われてみれば、UFOが突然現れてもおかしくないような、見渡す限りの荒涼とした世界であった。「よくも ...
続きを読む »駐在員をテーマーとするショート・ショート連作=「ブラジル諸人来たり」ブログより許可をえて抜粋=(1)=失踪
先任の大岩康信がパウリスタ大通りにある、良く言えば二十五階建てのビジネスビル、悪く言えば雑居ビルに間借りするブラジル支社から失踪してから、既に一年近い時間が経過していた。 小峰は、その大岩という先任者の事を当然よく知っている。日本本社の輸出センターで、一時彼と同じ課に勤務していた事があったからだ。大岩は三十歳の後半に課長に昇格 ...
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