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3度目の年を越すLJ作戦=国民の96%が継続希望=政界からの妨害も本格化

16年3月8日に19年の実刑判決を受け、司法取引にも応じる事になったオデブレヒト元社長、マルセロ・オデブレヒト被告(Cicero Rodrigues/ 2009年4月15日のWorld Economic Forumにて)

16年3月8日に19年の実刑判決を受け、司法取引にも応じる事になったオデブレヒト元社長、マルセロ・オデブレヒト被告(Cicero Rodrigues/ 2009年4月15日のWorld Economic Forumにて)

 車の洗浄も行うガソリンスタンド網を利用した不正な金の動きがあるとして、2014年3月にパラナ州など7州で始まった、連邦警察による汚職摘発作戦「ラヴァ・ジャット」(LJ)が、3度目の新年を迎えた。

 日本を始め先進諸国のメディアが「洗車作戦」などと訳すLJは、年を追う毎に捜査対象が広がり、伯国を取り巻く汚職がどれほど広範囲かつ奥深くに及んでいたかを、まざまざと見せつけている。
 国内でも有数の巨大企業がどっぷりと汚職の海に浸かり、様々な公共事業が私腹を肥やすために使われていた事が、ルーラ政権時代の経済的躍進を生んだ一方、その実態が暴かれ始めた事で、政界や財界も巻き込んだ混乱が生じ、伯国をかつてないほどの不況に追い込んだ事は周知の事実だ。

LJ継続と全容解明を望む国民

 LJのきっかけは、2005~06年に起きたメンサロン事件で摘発された進歩党(PP)の故ジョゼ・ジャネネ下議が、資金洗浄に使っていた会社の関係者が、2008年に行った告発だ。
 14年の第1弾以降、年毎に頻度も増している汚職摘発の動きは、2015年以降、国内外の機関からの表彰という、思いがけない結果ももたらした。最新例の一つは、非政府団体のトランスパレンシア・インテルナシオナルが2016年12月3日に行ったもの。同団体のメルセデス・デ・フレイタス代表は、「伯国は汚職により何億ドルもの損失を被った。伯国の人々は自分達の国を荒廃させた汚職に疲れ果てている。LJ特捜班の働きは素晴らしく、汚職に加担した人物や機関には鉄槌が下されるべきだ」と述べている。
 また、3日後の12月6日には、インノヴァレ研究所と法務省、判事や検事、弁護士らからなる諸団体が、伯国の司法を巡る問題の解決に貢献したとして、LJ特捜班にインノヴァレ賞を与えている。
 LJによる汚職摘発に対しては国民の期待も大きく、16年11月1~13日に行われた世論調査では、LJは汚職の実態が完全解明されるまで継続すべきとの意見が96%を占めた。

捜査の進捗を嫌う政治家達

LJ裁判を担当するパラナ連邦地裁のセルジオ・モロ判事(汚職防止に関する法案を審議する16年8月4日の下院特別委員会に招かれて、Jose Cruz/Agencia Brasil)

LJ裁判を担当するパラナ連邦地裁のセルジオ・モロ判事(汚職防止に関する法案を審議する16年8月4日の下院特別委員会に招かれて、Jose Cruz/Agencia Brasil)

 ところが、最近の連邦議会での動きは、このような国民の期待を裏切って、汚職摘発をより困難にする方向に動いているかに見える。
 最たるものは、連邦検察庁が提出した汚職防止法案の10項目を、ほとんど原形をとどめないほどいじくり回し、判事や検事達にまで職権乱用罪を適用しうるものにしてしまった事だ。
 旧来の職権乱用防止法改定にも繋がる上院での討論会では、LJに関する捜査や裁判の大半を担当するパラナ連邦地裁のセルジオ・モロ判事が16年3月に認めたルーラ元大統領の強制連行と事情聴取も、職権乱用の例とする議員さえいた。
 モロ判事はこの時、今の時点で判事や検事にも職権乱用罪を適用できるように法案を改正する事は、LJの捜査を妨害する行為ととられかねないと忠告した。また、この見解を証明するかのように、12月4日には、下院が骨抜きにした汚職防止法案を一気に上院本会議にかけようとしたレナン・カリェイロス上院議長と、それに賛同した議員らを最大の標的とする抗議行動も展開された。

汚職を生んだ土壌と、政治家と国民の乖離

 元々、大手企業によるカルテル形成や、公共事業の契約を得た企業などからの贈収賄は、政治家に便宜を図ってもらい、双方が私腹を肥やそうとする意図で始まったものだ。政党が乱立する伯国では、為政者もこういった賄賂で票を獲得し、政局運営をスムーズにしようとしがちだから、行政府と立法府、業界の癒着や汚職という構図が出来上がるのは簡単だ。
 LJの場合、第2弾で逮捕されたペトロブラスのパウロ・ロベルト・コスタ元供給部長が、司法取引に応じ、同公社を取り巻く汚職の実態を暴露し始めたのに続き、闇為替商のアルベルト・ユセフ氏らも報奨付の供述を始めた事で、捜査対象は次々に広がった。
 個人的な司法取引は70件、企業単位の司法取引は7件とされ、16年11月の時点で有罪判決を受けた人は118人、刑期総計は1256年6カ月という数字は、LJによる汚職摘発がいかに広範囲に及んでいるかを示す証拠といえる。
 LJによる汚職捜査の範囲は、ペトロブラスや保健省などの公的機関、アングラの原子力発電所や南北鉄道、石油の総合コンビナート、W杯や五輪関連の施設建設など多岐にわたり、主な作戦だけで38、派生したものも含めれば、60以上の作戦が敢行された。捜査に携わる機関も、連邦警察や連邦検察庁、国税庁、経済防衛行政審議会(Cade)など、多岐にわたっている。
 だが、捜査対象が広がり、裁判も進む内、ルーラ元大統領とジウマ前大統領の会話の盗聴記録公表や、それによるルーラ氏の官房長官職就任差し止め、最高裁と地裁の確執なども生じ始めた。法律学者やジャーナリストなどから、LJ捜査の情報が意図的に漏らされているなどと批判する声も聞かれる一方、ジウマ政権の法相が、政治家達に捜査の内容を伝えていたとの証言もある。
 こういった批判や確執は、LJの進展によって政治家にも捜査の手が延び、最高裁への起訴や起訴状受理といった動きが出てきた事でなおさら増えており、最高裁での裁判開始を首を長くして待つ国民と、出来るだけ遅らせ、捜査も妨害したい政治家達との思惑のへだたりは、ますます広がる。

景気後退や政権崩壊を招いたのは政治家や企業

 メンサロンがある意味のきっかけと言えるLJは、疑惑企業への断罪や罰金徴収、資産差し押さえなどによる経済活動の低迷を引き起こし、それも引き金の一つとなった景気後退、税収減や、放漫財政の癖がついていた労働者党(PT)政権の財政危機なども招いた。
 景気の低迷と財政危機は、ジウマ前大統領の粉飾会計や財政責任法違反の遠因でもあり、LJがPT政権を崩壊させたともいえる。
 だが、突き詰めていくならば、景気後退や政権崩壊を招いたのはLJではなく、LJを含む各種の捜査、作戦で摘発されるような汚職を行った政治家であり、企業だ。

16年2月22日のLJ23弾でオデブレヒト社本社ビル内に入ったLJの捜査官達(Rovena Rosa/Agencia Brasil)

16年2月22日のLJ23弾でオデブレヒト社本社ビル内に入ったLJの捜査官達(Rovena Rosa/Agencia Brasil)

 ルーラ氏が贔屓にし、国外にまで売り込んだオデブレヒト社は、この3年間で10万人以上を解雇しなくてはならないほど、経営が悪化。12月1日には、自分達の犯した過ちを認め、謝罪する文章を発表した。
 また、同社の現・元役員ら77人が司法取引に応じる事が正式に決まったのを受け、LJ特捜班は人員強化なども図り、捜査の速やかな進展を目指す意向だ。
 そうなれば、政治家への告発はこれまで以上に加速し、検察庁から最高裁への起訴状提出も早まるはずだ。
 LJの進捗を嫌う政治家達が、汚職に疲れ、生活難に追い込まれた国民から乖離し、判事や検察の動きを封じ込めようとしても、国民はもう、黙ってはいない。司法取引で新たな名前が出てきた日には、政局が再び混乱し、経済の回復を遅らせる可能性も強い。

最後まで平静な顔をしていられるのは誰?

 連邦検察庁のジャノー長官は12月19日にオデブレヒトの現・元役員の供述書を最高裁に送った。LJを巡る捜査や裁判が進展し、政治家にも具体的に火の粉が及び始めた時、平静な顔をしていられるのは誰か。
 クリチバとブラジリアの連邦地裁が起訴状を受け付けたのを受け、ルーラ氏の支援者は弁護費などで50万レアルを集めるキャンペーンも始めた。だが、同氏は12月19日にLJで4件目の被告になるなど、現実は厳しい。
 現職の議員や閣僚は最高裁の判断待ちで、18年の大統領・知事・連邦議員と州議員の選挙までに、最高裁が疑惑の政治家全員の裁判を終わらせるのは困難だろう。
 だが、LJ絡みの裁判と同年の統一選が、汚職に手を染めたり、汚職捜査の封じ込めを図ったりした政治家を排除する機会となれば、「高圧水流で洗浄する」との意味も持つLJは、本来の目的の少なくとも一部を果たしたと言える事になる。

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