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連載小説

宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(2)

 ついの旅になった訪日から帰った母をみて、息子はーママエは背中がかがんできたーとー彼の気づいたことを太一につげたが、それから千恵はしだいに痩せるようになった。医者にかかると、糖尿病と診察されて、こまかい食療法を指示された。処方どおりに従っているのに、干恵の体重は秤にかかるごとに針はさがっていった。息子は憂慮してふたたび病院で診察 ...

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ガウショ物語=(42)=骨投げ賭博=《1》=死者まで出す賭けとは

 「実をいうと、わしは自分の女を骨投げの賭博に賭けるのを見たことがある。その事で死者まで出たのさ……全くすごい賭けだった!」 街道に沿った村のはずれ、数本のイチジク の老木が枝を広げて陰を作っていた。その木陰にアハニョンと言うちっぽけな居酒屋があった。つぶれかかった店だが主人は抜け目のないヤツで、わしの見るところ脱走兵らしく、ス ...

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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(1)

 もう一つの連れはどうしたきりぎりす一茶  妻の千恵に先立たれた太一は、命あるものが避けることのできない生死の離別は、世の中の常と理解していても、この度の事はなかなか心底から納得することができず、―女房はおれより五歳も下だから、あれが残るだろう―と、楽天的な気持ちと安楽な日々になれて、当分はこの現状がつづくものと安心していたのが ...

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ガウショ物語=(41)=密輸に生きた男=《3》=無抵抗の頭領に一斉射撃

 その悪事の先頭にいたのがジャンゴ・ジョルジだった。若いときからだ、その死に至るまでな。わしはずっと見てきたんだ。 さっき話したように、婚礼の前日、ジャンゴ・ジョルジは娘の嫁入り衣装を取りに出かけて行った。 昼が過ぎ、夜が過ぎた。 次の日、つまり、婚礼の日、昼が過ぎても何の音沙汰もなかった。 家には大勢の招待客が集まっていた。村 ...

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ガウショ物語=(40)=密輸に生きた男=《2》=警官一握り、国境開けっ広げ

 ここリオ・グランデ・ド・スールを支配していたのは陸軍大将と呼ばれる男で、開拓地は与えたが、その後の生活は何も保障しなかった……。 お前さん、それがどう言うことか、今度中尉のポストについたら、身を持っていろいろと体験するから解るようになるだろう。 あのころ、火薬はわれらの国王陛下のもので、許可を得た何人かの大物ガウショだけしか火 ...

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ガウショ物語=(39)=密輸に生きた男=《1》=強いものが支配する時代

 その痩せた体はすで九〇歳に手が届こうとしていた。だが、イビロカイ川のほとりを拠点とする密輸クループの頭領だったジャンゴ・ジョルジの度胸はいまだに衰えを知らなかった。 この向こう見ずなガウショは、生涯ずっと国境の広野を行き来して過ごした。真昼の日差しの下を、青白い月の光りの中を、夜の闇の中を、明け方の立ち込める霧の中を……。 豪 ...

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ガウショ物語=(38)=勝利の天使=《2》=彼の名はベント・ゴンサルヴェス

 わしは仔牛のあばら肋骨に食いついたダニよろしく代父にぴったりくっ付いていた。代父が行くところについて行き、通りすぎればわしも通りすぎ、攻撃すれば攻撃し、退却すればわしもそうした。 そんな騒ぎの最中に、わしのポンチョはときどき風で膨れあがり、灰色の旗が風で空に舞うように、バタバタと翻った。 ベント・ゴンサルヴェス少佐は味方が団結 ...

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ガウショ物語=(37)=勝利の天使=《1》=まさか! 突然の夜襲

 あれはイツザインゴーの戦の後のことだった。サン・ガブリエルのずっと先の、イニャチウン湿原の向かい側にあるロザリオの渡しでのことだ。お前さん、イニャチウンて知らないのかい? 蚊のことさ。うまい名を付けたもんだよ。 イニャチウン湿原、いやー参った! 空中に舞う蚊が煙のようだったな! わしはまだガキでせいぜい一〇歳位だっただろうな。 ...

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パナマを越えて=本間剛夫=107 (終)

     ※『追記』※帰国して半年余りが過ぎた時、思いがけなくエスタニスラウから部厚い便りを受けとった。それには私のボリビア出国以後のゲバラに関する詳細が述べられていた。その大要を箇条書きで記すことにしよう。※ボリビアは一九六七年一月二十六日死刑を廃止しているが、ゲバラ殺害はその十年後であるにも拘わらず。殺害の正当な理由の説明も ...

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ガウショ物語=(36)=赤いスイカと青いヤシの実=《4》=即興詩人をよそおって

 「それはあしたにしておけ。今日は祝宴だ。ここに居て、婚姻を祝って葡萄酒を飲んだり、菓子を食ったりするがいい……。作業場へ行ってみな……」 「へぇ、親方。有難てぇことで。おれ、必ず、乾杯の仲間入りをさせてもらいます……」 「分かった、分かった。行け!」 狐は鶏小屋に入り込んだ……。 作業場で馬を降りたとき、シルーの脚は鉛のように ...

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