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パナマを越えて=本間剛夫

パナマを越えて=本間剛夫=107 (終)

     ※『追記』※帰国して半年余りが過ぎた時、思いがけなくエスタニスラウから部厚い便りを受けとった。それには私のボリビア出国以後のゲバラに関する詳細が述べられていた。その大要を箇条書きで記すことにしよう。※ボリビアは一九六七年一月二十六日死刑を廃止しているが、ゲバラ殺害はその十年後であるにも拘わらず。殺害の正当な理由の説明も ...

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パナマを越えて=本間剛夫=106

 彼らはボリビアで選ばれた青年六百五十人のレインジャーの緊急訓練を始めていた。この青年たちは十九週間訓練され、小銃や迫撃砲の撃ち方、装備のカモフラージュ、目標の位置の確認法、夜間移動者の足音、その他の聞きわけ、敵の待ち伏せ、自身の待ち伏せなどの要領などを教わる。 ゲバラはこの訓練所を襲うことにした。この地点は澄み切った水がリオ・ ...

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パナマを越えて=本間剛夫=105

「読むわよ。わたしラパスの小学校出たんですもの」女は白い歯を見せて微笑んだ。 それから小一時間も話が弾んだ。ゲリラと軍の活動状況が聞き出せると考えたゲバラ一行はパンを頬ばり、カフェを呑みながらサンタクルース周辺の治安について突っ込んだ質問をつづけた。そのあとで女がいった。「……奇妙なのは、このまわりがこんなに物騒なのに、政府は何 ...

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パナマを越えて=本間剛夫=104

 すかさずゲバラは隙間から続けざまに拳銃を発射した。手ごたえがあって一人が「おおっ!」と叫んで前こごみに倒れ、一人はびっこをひきながら走り、乗ってきたジープに跳び乗って走り去った。ジープにもう一人の影があった。 倒れた男の胸を黒い血が染めていた。 ゲバラの数発の弾は肺と胸を貫通していた。そこへ老村長が驚いた顔を出した。「死んでる ...

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パナマを越えて=本間剛夫=103

 この移住地は戦後、日本政府の事業として成功した約百家族の日本人の集団地だった。そこまで行けばブラジル国内の山地も平野も道路が整備されていて二、三日でラパスに着ける。ロベルトは軍人としてゲバラ以上に大陸の地理には明るかった。「俺はアルトパラナからコチャバンバのペルー組と連絡をとって合流する。君はサンタクルースでジャングルの先進グ ...

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パナマを越えて=本間剛夫=102

 私は疲れていたので、男たちに挨拶して夫人の案内で寝室に入り、着ている服装のままベッドに横になって、小一時間も軽寝したと思ったとき、隣室の男たちの声で眼を覚まされ、起き上がって隣室に入った。 隣室の声はゲバラと彼の中学時代の友、ロベルトとの会談だった。田代夫人も同席していて「お目覚めですね」と迎えてくれ、ゲバラに向かって、「日本 ...

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パナマを越えて=本間剛夫=101

 この運動に対してアメリカは既に十余年も前からパナマを基地としてレーンジャー遊撃隊を養成していた。これは南米の国の大小を問わず、各国の青年十名ずつを選んでパナマに集めて高地、ジャングルにおける戦闘要員を訓練していることに対する反発、憎悪だった。この訓練にはレーンジャーの意味するように高所に張ったロープを伝うなどの訓練、ジャングル ...

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パナマを越えて=本間剛夫=100

 もし予測できたなら、なぜコロンビア、ヴェネズエラの革命派働きかけなかったのだろうかとゲバラの短慮を怒った。しかし、ペルーの同志たちは既にアンデスを越えてコチャバンバまで降りて来たことはゲバラを勇気づけるだろう。と自分を慰めた。       10 数日後、突然エスタニスラウが訪ねて来た。私はターニャの話で、この国の左翼が君たちの ...

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パナマを越えて=本間剛夫=99

 私の踊りが下手なため、終始ターニャの靴を踏んだが、ターニャは嫌なそぶりもせず私をリードした。バンドが止んで私たちは手を取り合ってソファに腰を沈めた。「タケオ、あなたダンスだめね。こんどはわたしの部屋に来ないこと?」 ターニャは意味ありげに私の顔を覗いた。 ターニャはにっこり笑って私の眼を見詰めて反応を確かめるように私の手を強く ...

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パナマを越えて=本間剛夫=98

 それから間もなく、私がベッドに横になろうとすると電話のベルが鳴った。パウリーナからだった。 エスタニスラウは今ごろたぶんゲバラとドブレに会っていると思う。それから彼女は私がゲバラについて十分な認識がないと見たのか、ゲバラが現在までどんな活動をしているのかを説明した。 ゲバラが医師であること。学生時代、彼は考古学を専攻していたが ...

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