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連載小説

どこから来たの=大門千夏=(45)

 私のように背丈の小さいものですら、城のドアを通る時は、ちょっと頭を下げるようにして通る。せせこましい。  この時、あれれれ? この感触なんだか知っている。頭を少しかがめて通り過ぎる。しばらく歩くと、また隣の部屋に行くために頭を下げて通る。…何処かでしたことのある動作だ。  しばらく行くと今度は幅の狭い階段があって、母と二人で横 ...

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どこから来たの=大門千夏=(44)

夢の話  小さいときから朝起きると、まず母に夢物語を話す。  空を飛んだり海の中を歩いたり、知らない国に行ったり…と、ぜひとも聞いてほしい辻褄の合わない夢の話を真剣に話すのだ。  母はふんふんと手を動かしながら聞いていたが、ある日「この朝の忙しい時間にいい加減にしてちょうだい。しょうもない話」といった。堪忍袋が切れた、と言いたそ ...

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どこから来たの=大門千夏=(43)

「お母さんは何しているの?」 彼はなぜか一瞬ひるんだような表情をして、それから「ファッシネーラ(家政婦)」と小さな声でつぶやいた。 「じゃあ、お父さんは?」 「知らない、いないよ」つっけんどんに答えた。  大きくなったら何になりたいの?と聞いたらびっくりして困惑した顔をした。  そんなことを考えたことはないのだろう。今、今日、食 ...

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どこから来たの=大門千夏=(42)

 あああ、今日は私の誕生日だった。  絵にかいたモチ、まさしく絵に描いた誕生日。ケーキもなく、乾杯もなく、…それどころか昼食もなく、夕食もなかった。  忘れられない誕生日、思い出深い誕生日。桃子は確かにこう言った。ほんとうだ。こんな日でもやっぱり一つ歳をとるのであろうか。  大失敗の誕生日。歳はお返ししたい誕生日。        ...

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どこから来たの=大門千夏=(41)

 バスの振動が心地よい。星が無数に光っている。こんな大きな空をサンパウロの町では見ることがない。明日は私の誕生日、旅先での誕生日、心に残る思い出の日が待っている。いつの間にか私もぐっすりと寝込んでしまった。  周りがやかましくなった。明るくなった。終点オーロプレット。バスは止まった。同時に降りる気の早い人もいる。  隣を見ると、 ...

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どこから来たの=大門千夏=(40)

第四章 白い霧の夜 誕生日  「行こう行こう、どこでもいいから高ぁーいレストランに行こう」と、電話の向こうに湿った桃子の声。ハハーン夫婦喧嘩をしたな、と私はさっする。  サンパウロにある一番高いレストランに二人で出かける。体は小さいくせに桃子は食欲旺盛。  「要するに私達夫婦は相性が悪いのよ。あの人医者だから、患者の前だけ愛想が ...

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どこから来たの=大門千夏=(39)

 この帆布のハンドバックの中から、色変わりした手紙、何か重要書類らしいもの、印鑑、領収書、母が父からもらった唯一のヒスイの指輪などが出てきた。  そうして最後に小さな黑い石が出てきた。  黑くツルリとした親指くらいの石。油を塗ったように黒く光っている。真ん中が少しへこんで、まるで子供の靴のような形をしている。あの派手好きな母が大 ...

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どこから来たの=大門千夏=(38)

 父亡きあとは、母はずっと一人住まいをしていた。八〇歳くらいまでは「一人は最高」と高らかに公言していたが、体力の衰えと共に、娘がたびたび傍に来て自分の話し相手になってくれる事を願った。  しかし、他県に嫁いでいる娘たちは母の昔話、何度も聞いたしょうもない話を聞きに来る時間も、心の余裕もなかった。  亡くなる二日前、又同じ事を言っ ...

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どこから来たの=大門千夏=(37)

 九月中旬。母の九〇歳誕生祝いのために、私は日本に飛んだ。  父亡きあと三五年、一人でよく頑張って生きてくれたと驚きと共に感謝をしている。母がいるから日本にも行く気がおき、母が生きているから私も頑張ってこれた。時に辛辣に容赦ない批判をしてくれる母には腹も立つが、やはり「この世で一人」の存在だ。誰よりも私の味方であるし、誰よりも私 ...

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どこから来たの=大門千夏=(36)

 私は中年になって二人の子供と一緒にピアノを習い始めた。やはり母を落胆させた心の痛みがずっと何処かに残っていたのだろうか。五年くらいまじめに習った。そのうち娘がある日ピアノを突然やめてしまった時の憤慨、失望、悲しみ、落胆、初めて母の気持ちが体中で理解できた。…あれから二五年経っていた。  六〇歳を過ぎてから、妹の家で見た母の羽織 ...

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