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連載小説

どこから来たの=大門千夏=(20)

 青い氷が輝いているという南極をぜひ見たいと二〇年も昔から願ってきた。なんで?と聞かれても大した答えはない。ただ美しいから見たいのだ。 それと、あの世に行って夫に会ったら「地上から眺める南極は、天空から眺めるよりずっとずっと美しいのよ」と大いに威張って話したいという単純な動機である。  ちゃんと計画を立てて出港に合せて来ればいい ...

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どこから来たの=大門千夏=(77)

 文句を言うと、もう他に部屋はないという。さすがに腹が立って大声で文句を言った。するとどうだろう机の下からすっと鍵が出てきた。「この部屋は湯がでるよ」だって。知っていても苦情が出るまで知らぬ顔をしている。だから何事も常に文句を言い、大声でドナル、ガナル、ワメクと物事がスムースに行くという事がやっとわかった。こちらの顔つきが悪くな ...

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どこから来たの=大門千夏=(76)

 しかし、信じてはいけない。  私達が寄った食堂のお姉さんは――イヤイヤお嬢さんは一五?一六歳にしか見えなかった。テキパキと働き、店の台所を一人で切り盛りしていた(台所はお客から見えるところにある)。見ているだけでも百点をあげたいくらい良く働く。その上かわいく、あどけなく、色白で天使のような顔をしていた。  彼女の作ったラーメン ...

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どこから来たの=大門千夏=(75)

 「水代、一〇ドル! 二人で二〇ドル、それから、これに税金やらサービス料やら、二五%かかる」  「じゃあ二人で水だけで二五ドル。まさか!」二人で顔を見合わせた。  あわてて残った水をいじましくコップに注いだ。無理して飲んだ。こんな時、お生まれが判るのよね、と言いながらやっぱり飲んだ。残して立ち去ることがどうして出来ようか、できる ...

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どこから来たの=大門千夏=(74)

「貴女の応接間に飾ってあげてほしいんだけど」と言うと、女はキョトンとした顔をして、首を少しかしげてエッ?と言ったようだった。 「これはお母さんの心、お母さんの魂よ。売ったりしないで。……お母さんを思い出してあげて」と心をこめて言うと、女は眼を大きく見開いてじっと私を見つめて、それからしばらくして眉間に小さなしわを作って下を向いた ...

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どこから来たの=大門千夏=(73)

 こんなところに一人で住んでいた? しかしここまで黒くなるには少々の年月ではないはずだ。雨漏りだろうか、それとも水道管か。今までよくも漏電しなかったこと。  階段の白い大理石の手すりは壊れたままで、その大きな破片は黄褐色になって階段の下に転がっている。すぐ近くに住む娘は左官を呼んでやることも、電球一つ取り換えてあげることもしなか ...

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どこから来たの=大門千夏=(72)

 残されたコレクション  長らく雨の降らない日が続き、埃っぽく、喉はイガイガする、眼は赤くなる、こんな四月のある日、派手な服を着た、どこか落ち着きのないブラジル人女性が私の骨董店に入ってきた。  母親が二ヵ月前に亡くなったので品物を整理したい事、生前、コーヒーカップを何年もかけてコレクションしていたので、ものすごい数があるから買 ...

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どこから来たの=大門千夏=(71)

 急に胸の奥から申し訳ない気持ちが湧き起こってきた。ごめんなさいねと夫の写真に素直に謝った。夫にだけでは物足らず、神様ごめんなさい…思わず口に出して謝った。信心のないはずの私、神は病気の夫を助けてはくれなかった。役立たずの神は要らないし、居るはずもないと断言していた私が今初めて神に語りかけた。 「ごめんなさい。夫のせいではなく私 ...

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どこから来たの=大門千夏=(70)

 夫が亡くなって二年たった。一人で骨董屋を続けていた。  疲れ果てて旅から帰って来ると必ず何か問題がおこっている。  借家の事、商売の事、持っている土地の事、使用人の事、その上、日本にいる母の事まで、毎回毎回多いときは一〇個くらい問題が重なってやってくる。  あの日、飛行場に出迎えた娘は私の顔を見るや「すぐに決断しなくちゃいけな ...

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どこから来たの=大門千夏=(69)

「あーー夢に見たボンベイ!」と叫ぶとゲッチイは、「新婚旅行にボンベイに行ったのよあの二人…しかしすぐに破たんする。幸せとお金は関係ないわ」 「うう…んん。でもねェ幸せって言うのはやっぱり、お金があるってのは幸せってことだよね、それでも文句があるんだからねェ、不思議だよねェ」 「貧乏でも一生連れ添える人が側にいるのが一番いいのよ」 ...

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