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中島宏著『クリスト・レイ』第57話

 正式に移民としてやって来る、世界中の人々に対して同じ機会を与え、同じ保証を与えるという点においては、この国は誠に大国の度量を備えているといっていい。
 ただ、まったく違った国からやって来る以上、最初の期間は彼らだけの集団の中で生活するのは当然であり問題もないのだが、しかし、それがあまりに長期化し、常識を超える範囲のものになると、そこから疑惑が現れてくることになる。
 ブラジルで言う、キスト、つまり閉鎖的集団を形成するということは、ブラジル社会にとって決して好ましいものではない。世界からの多様な文化を受け入れることについては鷹揚に構えるこの国も、それがいつまで経っても溶け込んでいかない特異な文化集団を執拗なまでに継続させていく場合には、それに対する拒絶反応が起きてくる。
 当然であろう。世界中から移民して来た多くの民族が、時間の経過と共にやがて、このブラジルの大地に自然な形で融合していく中で、いつまでも自分たちの世界に閉じこもるようにして、その文化性に固執していく集団は、決して歓迎されるものではない。ブラジル側から見る日本の移民の人々は、そのような閉鎖的性向を強く持つ集団として映った。それは決して、危険思想を持った集団ということではなかったが、しかし、いつまでもブラジル社会に溶け込まないのは、明らかに異常集団といえた。
 その異常さが、時に危険分子に転換される可能性がないとも限らない。
 ブラジル社会から見ればそれは、一種の不気味さに通じるものでもあった。いずれにしても、日本人の持つ集団性は特異なもの、不思議なものとして見られる傾向が強くなりつつあった。無論そのことは日本人たちにとっても決していいことではない。
 しかし一方で、現実の問題としては日本人移民たちが、一度にその生き様を変えるというようなことも不可能であった。人々の大半がまだ、本当の意味での移民、すなわちこのブラジルに永住して、もう日本には帰らないという思考を持たない限り、彼らの生き方が変わって行く道理もなかったのである。
 ただ、たとえそうであるにしても、この頃になってくるとさすがに日本人移民たちの間にも、最初の出稼ぎの夢は脆くも消え去ったという認識が現実のものとなりつつあったことは間違いなく、そこから徐々に永住への思考に転換していくという人々が少しずつ増えていったことも事実であった。
 その辺りから、それまでの閉鎖性社会の形が徐々に崩れていくことになるのだが、マルコスたちのこの時代の背景にはそのような動きが始まりつつあった。イタリア系ブラジル人のマルコス・ラザリーニにとって、この日本人移民たちの特殊な事情は、はっきり言ってよく理解できなかった。だが、日本語を学ぶうちに、また、アヤとか他の日本人たちと話をしていくうちに、少しずつながらその辺の事情が分かるようになっていった。
 最初、マルコスが戸惑ったのは、ここの日本人たち、あるいは日系人たちが彼のことを“ガイジン”と呼んだことであった。ガイジンの言葉の意味を尋ねたら、それは外国人のことであるという。

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