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キノコ雑考=ブラジルに於けるキノコ栽培の史実とその背景=元JAIDO及びJICA 農水産専門家 野澤 弘司 (6)

 武者小路実篤、菊池寛、新田次郎、芥川竜之介など日本を代表する往時の著名な文豪達が、敢えて「今昔物語」31巻1千集余りの説話の大作を読破していたかは知る由も無いが、「今昔物語」を執筆活動の糧として、また著作の文脈設定の指針として陶酔し、歴史に残る名作を残したのは周知の事実であります。文筆家を夢見る諸賢にはあやかりたいものです。
 更には「ゲゲゲの鬼太郎」の水木シゲルは妖怪古典漫画を古文書と同じ「今昔物語」の表題で、エロチシズム溢れる今も昔も変わらない人間模様を如実に表現しています。
 一方、世も所も変り、藤森元ペルー大統領が信奉した呪術宗教を司宰し、神と人間の世界を繋ぐ今様シャーマンの多くは、先ず祈祷する前に様々な植物の根や葉の搾汁や、霊芝のような大型のキノコや鉱物の塊や人間の頭蓋骨や毛皮を常設の台座に並べ、神のお告げを授かる為に強力な幻覚症状をもたらし、前世、未来、天国を知る事ができると言うアヤワスカ(Ayahuasca)と云う蔓性の植物からの滲出液を飲むのが慣例です。
 此れ等の相関関係を対比するに、当時の文豪達はキノコを食して幻覚症状に陥いる体験はしなくとも、陥った別人の説話から自身の著作や作風に様々なヒントを享受し、大作に至った文豪達の創作中と、シャーマンの祈祷中の心理状態や脳の活動に共通点が存在し陶酔感、多幸感、想像力の高揚等の心境に自ずと陥ったのではと愚考します。
 人類とキノコとの関係を研究する学問を民族菌類学(Ethnomycology)と称し、その草分けは   アメリカのJ.P.モルガン銀行の副頭取だったRobert Gordon Wasson(1898〜1986)とされています。
 彼は山麓の保養地に新婚旅行で滞在中、ヨーロッパ系の自分は嫌いなキノコをスラブ系ロシア人の新妻が毎日決まってキノコ料理をオーダーするのに違和感を覚え、世界の各民族とキノコとの神話、宗教、伝説、民話、民芸品等との互換性について調査研究したのが民族菌類学に傾倒した動機でした。
 その後メキシコで巫女が利用する催幻覚性キノコについての研究や、各地の菌類の歴史的な使用の実態やキノコが社会的に及ぼす影響等を研究しました。
 辞書には歴然と掲載されているMycophillia=キノコ好きと、Mycophilibia=キノコ嫌いの文字には両者の民族的な特色が伺われます。キノコに対する社会的評価では「森の民」とも称されているロシア人のご馳走は「7皿全てがキノコ」と云われる程キノコ好きで、キノコが原料の抗癌剤「チャーガ」も有名です。
 また宇宙の形を問う100年来の難問「ポアンカレ予想」を証明した数学界のノーベル賞であるフイルーズ賞と賞金100万ドルを辞退した鬼才グリゴリ・ペレルマン(Grigori Y.Perelman)は、公私に及ぶ社会との接触を絶ち、キノコの魅力に取り憑かれ、母親と共に労働者階級のアパートに住み、故郷サンクトぺテルブルクの森でキノコ狩り三昧の優雅な余生を送っているとの事です。
 日本では南方熊楠(ミナカタ クマグス、1867〜1941)が植物、民俗、宗教、哲学に長じた世界に誇る奇人で博物及びキノコ学者として、ロンドン大英博物館で資料管理の仕事をしながらネーチュン誌に各学界に及ぶ51の研究論文を寄稿し、“くさびらは幾却(イクコウ)へたる宿対(シュクタイ)ぞ”、即ち「キノコと云うのは長年にわたる宿命の相手だぞ」と、キノコ探究への執念と戒め、そして覚悟を詠みました。

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