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越境する日本文化 マンガ・アニメ(1)=『聖闘士星矢』が転載=94年以降、激増すらファン人口

1月21日(火)

(共同連載『越境する日本文化』の統一)
 テレビの主婦番組ではブラジル人シェフが日本料理を教え、街角には日本語Tシャツを着た人々が行きかい、バンカには日本のマンガがずらりと並んでいる。移民が持ち込んだ日本文化は、いまや従来の枠を大きく越えて広がっている。あるものは二・三世へ、またはブラジル社会全体へ――。今回の共同連載では、あえて移住者にとって愛着の強い伝統的な日本文化にこだわらず、現代ならではの新しい現象にも焦点をあてた。そんな〃ブラジル風日本文化〃の一断面を、それぞれの記者が描いてみた。

《マンガ・アニメ編》
アニメ『聖闘士星矢』が転機
九四年以降、激増するファン人口

 「十五歳の時、初めての給料でワクワクしながら『マーガレット』を、リベルダーデの古本屋で買いました」。セルジオ・ペイショット・シウヴァさん(三八歳、非日系)は懐かしそうに語る。「それが少女漫画の週刊誌だってことさえ当時は知らなかった」。
 六歳の時にテレビで放送されていた「エイトマン」で、彼は日本アニメのとりこになり、今ではブラジル〃otaku〃(おたく=日本の漫画・アニメの熱烈な愛好者)界を代表する一人になった。週に三~四冊の情報誌を編集責任者兼ライターとして世に送り出して生活している、趣味が高じて職業になった幸運な一人だ。
 東洋人街全盛期の七〇年代中頃、「中学がリベルダーデのタグア街にあったので、毎日のように映画館や古本屋へ寄っては〃日本の空気〃を吸っていた」と回想する。
 当時は三軒の日本映画上映館があり、検閲と字幕の関係で約半年遅れで封切りしていたが、テレビ、ビデオ、カラオケの隆盛と入れ代わるように、八〇年代に全ての映画館は閉鎖を余儀なくされた。
 ブラジル日本移民史料館の大井セーリア館長は「五〇年代、六〇年代のリベルダーデには、その後有名になる多くのブラジル人映画監督やジャーナリストの卵が通い、暗示的表現を駆使した幻想的な日本映画の影響を受けたと、自ら証言している人が多い。マンガやアニメにも当然、そのような人がいたはずです」と当時の状況を解説する。
 ペイショットさんが子供の頃は、アニメは散発的に放送されるだけだった。ところが九四年にTVマンシェッテで「Cavaleiros do Zodiaco」(原題「聖闘士星矢」=セイントセイヤ、以下セイヤと略)が爆発的人気を呼び、状況は一変した。
 「そのときマンシェッテはIBOPの視聴率調査で一四%を記録しました」。一%は百万人(当時)にも相当するそうなので、実に一千四百万人、小学生層の相当数が視聴していたことになる。九五年だけで百万個の関連人形が公式に売れた。「海賊商品を入れれば、三百万個とも言われます」。
 ペイショットさんはそれを西暦表記の紀元前・紀元後になぞらえて、「Antes de Cavaleiros」(セイヤ前=AC)、「Depois de ~」(セイヤ後=DC)と呼ぶ。
 六〇年代からの長いAC期間を経て、花開いたブラジルの日本アニメ・マンガ文化。欧州文化と親和性が高いブラジル社会に、東洋的、否、あまりに日本的なそれが熱烈に歓迎され始めているのは、なぜだろう。
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 街角に立つバンカでは、移住者には懐かしい手塚漫画ではなく、聞いたこともない最新のカタカナ作品が、コミック本コーナーの半分を占めている。日本語に興味をしめさない孫やひ孫も、実は日本アニメ・マンガの強烈な洗礼を受けながら育っている。移住者が残そうとする伝統的な文化・精神と、現代日本から直接持ち込まれるそれには、どんな違いがあるのか。人気の秘密は? どのくらいのファンがいるのか。マンガ・アニメをめぐる最新事情を調べた。 (深沢正雪記者)

■越境する日本文化 マンガ・アニメ(1)=『聖闘士星矢』が転載=94年以降、激増すらファン人口

■越境する日本文化 マンガ・アニメ(2)=激増する〃Otaku〃たち=マンガ読者人口5百万人?!

■越境する日本文化 マンガ・アニメ(3)=パソコンとアニメの 怪しい関係=ネットの闇にうごめくオタクたち

■越境する日本文化 マンガ・アニメ(4)=鼻息荒いマンガ出版業界=日系が始めブラジル人が市場拡大

■越境する日本文化 マンガ・アニメ(5)=アメコミはライバル?!=子どもの頃からマンガ家が夢

■越境する日本文化 マンガ・アニメ(6)=違和感を超える面白さ=コロニア通らず入り込む

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■越境する日本文化 マンガ・アニメ(8)=マニアックな読者たち=マンガ通して 日本の風俗へ親しみ

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