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越境する日本文化 漢字(2)=日本の「経済的成功」と「神秘」=漢字Tシャツの魅力

2月4日(火)

 漢字Tシャツを作って売る側の企業に、その魅力を聞いてみた。
 ジャパン・ソサエティの現代表、タルシーゾ・正勝・中島さん(五六)は、ブラジル人の間で東洋的なデザインが好まれるのは、「現代日本が持っている経済的成功、先進的、リーダーといったイメージに理由がある」と分析している。そしてもちろん、「ミステリアスなイメージも要素の一つ」という。
 日系でない業者も漢字Tシャツを作っていると言われているが、タルシーゾさんはれっきとした日系人。鉄工所経営で生計を立てていた日本移民の息子だ。自動車部品会社の財政部長を務めていたが、経済的な自立を求めてジャパン・ソサエティに入社。「昔は雇われの身でしたが、今は小さいながらも雇う側です」と笑う。
 同じく作り手側である造形作家の吉沢太さんは、漢字人気の理由を「きれいで、ビジュアルだからではないか」とした上で、「漢字がこんなに流行るようになったのは、九八年ごろからではないか」と話す。
 九八年、舞踏家の大野一雄に頼まれ、ステージの背景に和歌を書いたのが初めてだった。同年、広告代理店「コルッチ」に頼まれ、カレンダー用に「調和」「愛情」「実現」などの漢字を書いたり、インテリア店のバザーに書道作品を出したりもした。それ以降も、レストランや美容関係の店から頼まれて漢字を元にしたデザインを手掛けた。最近はKEROPPIの依頼で、「鯉」という漢字と絵が入ったシャツをデザインした。
 本職は造形作家。書道は小学校から中学校にかけて習っていただけで、専門ではない。「日本にいたら、こういうこと(書道の展示など)はしないと思う」と話す。ブラジル社会からの要求が、吉沢さんに漢字を書かせる。
 『こういうことできる?』と聞かれて漢字を書く、ということがほとんどだという。書く字を決めることができるときは、「象徴的で絵画的になる文字を選んでいる」。
漢字グッズの作り手側は、基本的にはブラジルの消費者の要求に応じて漢字を選ぶ。だから、ジャパン・ソサエティのTシャツにしても、吉沢さんがブラジル人の注文を受けて書く字にしても、「幸福」「調和」「愛情」といった、ブラジルで評価されている価値観の訳語としての漢字が選ばれる。日本ではあまり目にしない漢字なだけに、ブラジル風日本文化と言えそうだ。
 しかし、それは「ブラジルの選択に任せた受動的な漢字普及で良いのか」、という疑問にもつながりはしないだろうか。
 もちろん、全ての漢字Tシャツがブラジルに「迎合」して作られているかというと、そうではない。(渡辺文隆記者)

■越境する日本文化 漢字(1)=Tシャツに書かれた=「命」「幸福」「友情」「成功」

■越境する日本文化 漢字(2)=日本の「経済的成功」と「神秘」=漢字Tシャツの魅力

■越境する日本文化 漢字(3)=日本の美しさ伝える=Tシャツの 文字はメッセージ

■越境する日本文化 漢字(4)=「1つ」で意味を持つ=ブラジルにはない存在

■越境する日本文化 漢字(5)=文字による自己表現=ブラジルでも普及の可能性

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