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日伯学園構想に関する報告と提言(1)=一世世代最後の貢献=百年後に残る構想を

3月11日(火)

 文協日伯学園検討委員会の活動報告「日伯学園構想に関する報告と提言」がこのほどまとめられた。報告書は全四十五ページ。これまでの活動を踏まえ、日伯学園の建学理念をはじめ学校モデルの具体案、学園建設に向けた今後の課題について提言を行っている。ブラジル日本文化協会は今月六日の定期理事会で同報告書を承認。これにより検討委員会の活動は終了し、同事業は今後設置が予想される準備委員会にゆだねられることになる。過去幾度となく浮かんでは消えてきた日伯学園構想。日本移民百周年を五年後に控えた今、委員会はどのような日伯学園像を描いただろうか。報告書の内容を紹介する。

 活動休止状態にあった検討委が岩崎秀雄文協会長のもとで新たに設置されたのが二〇〇一年四月。以来二年間、同委員会は広範な調査を通じて日伯学園実現の可能性を探ってきた。十一度にわたる委員会の開催、他国コロニア系学校を含む関係団体の視察。二年間に意見を求めた有識者は百人以上に上る。
 報告書は六章から成り、前半では「今なぜ日伯学園か」、「建学理念」、「建学理念に関する論争」と題して構想の背景と現在までの歩み、学園建設の意義を説明している。
 後半の三章では具体的な学校モデルとして、「小中高校案」と「大学案」の二案を紹介。両案の比較検討を行なうとともに、日伯学園を中心に全伯各地の日本語学校、地方文協を結ぶ中核組織として「日伯学園教育支援センター(仮称)」の創設を提言する。合わせて「今後の課題」として、日本移民百周年を見据えた今後の作業日程と、必要とされる調査課題を挙げている。

 以下、報告書の内容を個別に紹介する。

【今なぜ日伯学園か】

 報告書は冒頭の章で、日伯学園構想が再び浮かび上がってきた、その背景を説明している。

 日伯学園を巡る論争は、一九六五年に宮坂国人文協会長(当時)が提唱した「モデルスクール構想」以来、四十年近くにわたって幾度となく繰り返されてきた。そして、日本移民百周年を五年後に控えた今、その機運が再び盛り上がりつつある。
 ではなぜ今なのか。報告書は、そこに一世の心情的な側面があることを否定しない。同構想が百周年の記念事業になることは、日本との橋渡しという点からも、一世世代にとって日系社会への最後の貢献という意味を持つからだ。
 委員会メンバーのほとんどは一世。委員会に招いた有識者の半分以上は一世だった。しかし、実際の運営を考えた場合、二、三、四世世代の協力は欠かせない。報告書はこうしたことを述べた上で、「この提言書をきっかけに新世代にも論争に加わってもらい、より洗練された構想とする必要がある」と提言している。
 コチア、南銀など日系コロニアを代表してきた組織の崩壊と一世世代の高齢化。さらに近年のデカセギ現象などにより、ブラジル日系社会は今大きな転機を迎えている。百年の歴史を振り返って、日本移民はブラジル社会に何を残してきたのか。将来の日系社会のために何を残せるのか。報告書はその一つの答えとして日伯学園構想を掲げる。
 今回の構想は、これまでコロニア子弟への日本文化継承に重きを置いてきた従来の学園構想とは異なり、その対象を日系社会を含むブラジル社会一般の子弟まで広げている。
 その中心となるのが「日本文化の普及」だ。日伯学園は、百年の移住経験を活かして日本文化をブラジル社会に広めるための教育機関と位置付けられている。
 報告書は次のように述べる。「この百年間の先人の苦闘に思いをはせるにつれ、新しい百年にどんな絵を描くのか――を真剣に考えるべき時期にきていることを痛感する」と。そして「今後百年にわたって残るもの」として、「世代を経るごとに拡がる〝社会的仕組み〟」の必要性を強調する。
 「それは人を造ること、『教育』以外にありえない」。報告書はこう述べ、日伯学園構想の意義を問いかけている。
       (つづく)

■日伯学園構想に関する報告と提言(1)=一世世代最後の貢献=百年後に残る構想を

■日伯学園構想に関する報告と提言(2)=日系の〝根〟問い直し=多文化共生国家 新文化形成へ貢献 

■日伯学園構想に関する報告と提言(3)=コレジオか大学か=新たに「総合大学」構想 

■日伯学園構想に関する報告と提言(終)=支援センター設立を=ネットワークで全伯つなぐ

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