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コラム 樹海

 「潮湯治」は海水浴のことだが、これほどに日本人は温泉が好きなのである。その昔は秋の収穫が終わると農家のお爺さんやお婆さんが連れ立って湯治に向かう。布団や鍋も持参。米も味噌・醤油をも持っての温泉行きである。短くても十日。長い人は一ヵ月も珍しくはない。朝昼晩の食べ物はお婆ちゃんが自慢の腕を振るう。爺ちゃんは湯上がりの晩酌を楽しみ興が乗れば民謡などを静かに唸るー▼日本には温泉が多い。疲れを癒しに娯楽にと山の奥の温泉を楽しむ人も一杯いる。ところが、これら温泉の七割が看板に偽りありなのだそうな。国の公正取引委員会が全国に二万二千余もある温泉施設を調べて見たらー一度使ったお湯を殺菌・循環してところが七割もあった。なのに大きな看板には「源泉一〇〇%」「天然温泉」と書いているというのだから始末が悪い▼シャンプーや石鹸で汚れた湯などをすべて循環していた悪辣な業者もいたそうだ。全ての温泉がこうだとは思わないが、悪に染まった温泉宿が増えているのは確かと見ていい。こんな不健康なニセ物を作るのも、自然に地の底から滲み湧いてくる源泉が少なくなっているからだろう▼湯を循環するには塩素を使用することが多いが、これだと温泉の成分をも損ねてしまうの説もある。本来、温泉と湯治は、身体の疲れを取り病気をも癒す楽しみの聖域だったのに今や悪の巣窟とは情けない。贅沢さはいらない。明るく健康な温泉。爺さんと婆さんが安心して行ける昔ながらの地味な湯治場を一刻も早くーが、庶民のみんなの願いなのだ。      (遯)

03/07/31

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