ホーム | コラム | 樹海 | コラム 樹海

コラム 樹海

 イラクの国名は「豊かな過去を持つ国」を意味するアラビア語からきているが、確かに優れた歴史を誇る国である。紀元前四千年にはシュメール文化の花を開かせハンムラビ法典が施行されたのは紀元前十八世紀後半であり、ここで使用された文字や学問的な知識は古代西アジア文明を基礎付けるものであった。日本人にも馴染みの深い「千夜一夜物語」もイラクの作品である▼そんな「豊かな過去」を捨て去るように二十数年に亙りこの国・イラクを支配してきたサダム・フセイン元大統領が、駐留米軍の急襲を受け拘禁された。出身地であるティクリート付近の穴蔵に潜んでいたのを発見され捕縛されたそうだ。この人にはいろんな風評があるけれども、第一に挙げるべきは「戦争好き」であろう。七十九年に政権を握った翌年の八十年にはイラクと戦争を始め、これが八十八年まで延々と続く▼九十年になると隣国のクウェートへ侵攻し全土を占領する。これを咎めるためアメリカのブッシュ政権(現在の大統領の実父)が多国籍軍を組織しての湾岸戦争は九十一年である。戦場は世界にTV放映され、現代兵器の凄まじいばかりの威力に世界中が驚きびっくりする。あの貴重な軍事体験をサダム・フセイン元大統領は今に生かせなかったらしい▼今度の戦争が始まる直前に元大統領は、イラク伝統の巨大な刀剣を振りかざし国民に力を誇示したけれども、ロケットに勝ち目はない。そして―。小さな穴蔵での悲惨な投降。   (遯)

03/12/16

image_print